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『鬼滅の刃』を読み解く鍵は監督にあり! 監督・外崎春雄の「見えない作家性」に迫る

国内映画興収ランキングトップテンに、2作もランクイン(イメージ)

2020年、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、日本映画史を塗り替える興行収入404億円という空前の大ヒットを記録しました。その映像美とダイナミックなアクションは、観客を熱狂させ、「作画が神」と称賛の嵐が巻き起こりました。

しかし、この作品の監督を務めた外崎春雄氏の名前が、その偉業と同レベルで語られることは驚くほど少ないのです。多くのファンは「ufotableの力」と口にし、監督個人の功績は背景に埋もれがちです。

これは、外崎監督が「作家性」の第一段階を極めた、比類なき映像作家であることの証明です。なぜ、これほどの才能が、その功績を「見えない」存在として扱われるのか?この問いは、現代日本のコンテンツ文化の奥深さを物語っています。

 


 

時代の変遷が生んだ「ファン代表」の台頭

現代のコンテンツ文化は、SNSの登場によって劇的に変化しました。理屈ではなく「愛」で作品を語る「ファン代表」が台頭し、彼らの言葉は専門的な「評論家」の言葉よりも圧倒的に早く、そして広く、人々の心に響くようになりました。

この背景には、日本文化に深く根ざした「和」を重んじる感性があります。作品を愛するコミュニティの「和」を乱さないため、否定的な意見や客観的な批評は「攻撃」と見なされる傾向があります。

しかし、この感性は温かいコミュニティを育む一方で、作品の価値をより深く探求する機会を失わせ、「すごい」という一言で思考が停止してしまうという課題も生み出しています。

 


 

「作家性」進化の三段階:外崎監督はどこへ向かうのか

では、私たちは今後どのように作品と向き合えば良いのでしょうか?鍵となるのは、「作家性」の段階的な進化という視点です。

  • 第一段階:スタイルとしての作家性 これは、映像の演出技法や作風に表れる個性です。外崎監督の卓越したアクション演出がこれにあたります。この才能は作品の面白さを保証しますが、監督個人の思想にまで踏み込みません。

  • 第二段階:テーマとしての作家性 この段階に到達すると、監督は特定のテーマを繰り返し描くようになります。新海誠監督が「すれ違う男女の恋」や「世界の美しさと残酷さ」といったテーマで、自身のブランドを確立したように、観客は監督の作品に一貫したメッセージを見出します。

  • 最上位:哲学としての作家性 これは、作品の根幹を監督自身の哲学が成す段階です。押井守監督が『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で、「魂の存在」という哲学的な問いを作品の核に据えたように、監督のビジョンが原作をも再構築します。これは、作品に唯一無二の芸術的価値を与えますが、同時に賛否両論を巻き起こすリスクも伴います。


 

外崎監督への期待、そして未来への問い

外崎監督は、比類なき「映像作家」として、既に第一段階の作家性を極めています。その才能が、今後どのような「テーマ」と結びついていくのか、そして彼が「作家」として次の段階へ進化するのかは、彼のキャリアにおける最大の問いと言えるでしょう。

私たちは、作品への純粋な愛を大切にしつつも、その感動を生み出した作り手の「作家性」に目を向けることで、コンテンツの楽しみ方を何倍にも広げることができます。外崎監督の今後の動向に注目することは、私たちが現代アニメの可能性を改めて見つめ直す、良い機会になるはずです。