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ニュースの「構造」と、個人的な視点が交わる考察ログ

投資という名の人間ドラマ ―― 手法を分類してわかる、変な熱量の正体

新聞を切り抜く手元。88歳の老兵は今日も前場を待つ(イメージ)

「NISAの年間満額枠を埋めるために、彼女と別れました」 「手取り20万円ですが、毎月11万円を投資に回しています」

こうした証言が並ぶ「あつまれNISA貧乏バー」の取材が話題になったとき、反応の多くは困惑と、少し距離を置いた苦笑いだった。経済の専門家からは「危なっかしい」「若いうちの体験や健康を犠牲にするのは本末転倒だ」という指摘が出た。将来の資産のために今の生活水準を削るのは、経済合理性の観点からすれば非合理であり、この批判自体は妥当だろう。

ただ、この記事で取り上げる8人を見ていくと、少し違う仮説が立つ。彼らの手法は、表面的にはスプレッドシートと数字で説明できる合理的な仕組みに見える。しかし一段掘り下げると、その配分を選んだ理由は、それぞれが元々持っていた個人的なこだわりや、時には抜き差しならない事情そのものであることが多い。手法は後から数字の言葉に翻訳されただけで、中身は最初からその人固有の熱の入れ方だった、というほうが近い。そして、そのこだわりの水準は、正直なところ、そのへんではあまり見かけない域に達している。

この記事では、投資手法を3つの変数に分解したうえで、テスタ氏、ちょる子氏、ナスダッ子氏、kenmo氏、こどおじマスターK氏、笠原尊師氏、ルネ岩田氏、そして藤本茂氏という、実在する8人の手法と背景を見ていく。先に結論だけ知りたい方は、第5章の分類マップに飛んでもらって構わない。

 

第1章 投資手法を分ける3つの変数

手法はいくら複雑に見えても、使える武器は突き詰めれば以下の3つに集約される。

  • 時間(複利) ―― 待つことそのものを利益に変える長さ。
  • レバレッジ(他人の力) ―― 銀行の与信、あるいはシステムという名のテコ。
  • 情報の非対称性(歪み) ―― 市場の効率性の隙間や集団心理の偏りを見抜く力。

この3つの配分によって、それぞれの投資家は自分なりの「レシピ」を選ぶ。ただし、なぜその配分を選ぶのかという理由の部分に、その人固有の性分がそのまま出る。以下、8人を見ていくが、各項目の最後にこの3変数のどこに比重があるかを一行で添えていく。

 

第2章 メジャーゾーン

テスタ氏 ―― 反復練習を手放さない人

2005年、元手300万円で株式投資を始めた。小学生の頃からゲームに没頭し、中学の頃には対戦格闘ゲームの勝ち方を研究していたという反射神経の鍛え方は、そのまま板情報――買い注文と売り注文の気配値の厚み、大口注文の入り方――を読むデイトレードに転用された。期待値がプラスと判断した瞬間にポジションを取り、思惑が外れれば感情を挟まず即座に切る。この動作を、投資開始から10年ほどは一日に何十回も繰り返していた。

ただし2016年以降は軸足を中長期投資に移し、高配当株や米国株、株価指数先物も組み合わせるようになっている。それでも根っこにあるのは、20年以上にわたって年間成績のマイナスを一度も出さなかったという反復の精度だ。本人いわく、その理由は「ビビりだから」。常にリスクを削る方向に頭を使ってきた結果、2024年2月には累計利益100億円に到達した。2014年からは全国の児童養護施設への寄付を継続している。

比重:情報の非対称性(強)/時間(近年は中)/レバレッジ(弱)


ちょる子氏 ―― 「休み」を勝負に変える人

外資系製薬会社でMR(医薬情報担当者)として働いていたちょる子氏は、2011年、父に勧められるまま234万円ほどでオリエンタルランド株を株主優待目的で買った。当時は投資にほとんど興味がなく、しばらく放置していたという。転機は出産と育児休暇だった。赤ん坊を片腕に抱えながら、もう片方の手でスマートフォンから発注する生活の中で銘柄監視にのめり込み、3年間でおよそ2,000万円を1億円まで増やした。

普通なら仕事から離れる休みの期間を、逆に最も集中して相場に向き合う時間に変えてしまうところに、この人の異様さがある。1日で2,400万円を溶かした経験も含めて手痛い失敗を公表しながら、現在は短期のスイングトレードと高配当株の長期保有を組み合わせるスタイルに落ち着いている。

比重:情報の非対称性(強)/時間(中)/レバレッジ(弱)


ナスダッ子氏 ―― 後半戦から本気を出せる人

約30年間専業主婦を務め、その大半にあたる20年ほどは2人の息子の弁当を作り続けてきた――というだけでは、この人を語ったことにならない。26歳で結婚した直後、新聞記者だった夫の海外転勤が決まった。子どもが生まれたわずか2カ月後、夫は先にベルギーへ渡り、彼女は首が据わったばかりの生後4カ月の子どもを抱えて、2カ月遅れでひとり後を追った。帰国後は専業主婦として暮らしたが、女性の社会進出が進む日本を横目に、「仕事を続けていたら別の人生があったのかもしれない」というもやもやを抱え続けていたという。投資に縁がなかったのは、経済部にいた夫の勤務先の都合で株の購入が制限されていたためだ。転機は夫の退職。年金受給までの空白期間に無収入になる不安から、55歳で本格的に米国株投資を始めた。

個別のハイテク株――エヌビディア、マイクロソフト、テスラなど――を中心に、銘柄選びの軸は「そのセクターで圧倒的なシェアを持つ企業か」「参入障壁が高いか」、そして「自分が応援したい企業か」の3つ。約6,000万円の元手を、7年ほどで3億円台まで増やした。資産の9割は対面証券で長期保有、1割はネット証券での短期売買に回している。

投資で得た資金を元手に、60代を迎えてから、子どもの頃からの夢だったアパレルと輸入の会社を青山で立ち上げた。年金生活の夫の扶養家族という立場のまま、人生で初めて事業を起こしている。55歳で本格的に始め、還暦を過ぎて起業までしてしまう。30年分の空白を一気に埋めるようなこの切り替えの速さそのものが、手法の土台になっている。

比重:時間(強)/レバレッジ(弱)/情報の非対称性(中)


kenmo氏 ―― 利益を半分に割り切れる人

大阪大学大学院を修了後、東証プライム上場メーカーで研究職に就いていたが、「出世も起業も無理だと思ったから」株式投資を選んだ、と本人は振り返っている。2011年、4年かけて貯めた元手300万円で始めた最初の取引の利益は、1,000円ほどだったという。最初は株主優待や需給投資といった小回りの利くトレードから入り、やがて株価が過去の高値を突破し上値の売り圧力が少ない「新高値圏」の銘柄に絞る手法に移行していく。好決算や上方修正を出した企業の初動を捉えて資金を集中させ、想定通り上昇して利益が乗った段階で保有株の半分を売却し初期元本を回収する。残りは「ノーリスクの株」としてさらに上値を追う。

利益が乗った株を、感情の高まりのままに追加で買い増すのではなく、機械的に半分だけ手放す。この「半分だけ」に踏みとどまれる冷静さは、研究職として培った検証の癖がそのまま投資判断に移植された結果だろう。

情報の非対称性へのこだわりは、手法の中だけにとどまらない。中小型株に投資していた当時、社長の顔写真すらウェブサイトに載っていない企業が多く、機関投資家だけが個別ヒアリングで生の情報を得られる状況に強い不満を持っていたという。その不満を放置せず、2018年に「湘南投資勉強会」を設立し、自らIR説明会を年間100社以上主催するまでになった。情報の非対称性を嘆くのではなく、自分でその非対称性を埋める側に回ってしまったところに、この人の徹底ぶりがある。給料には一切手をつけないまま5年で資産1億円に達し、現在は中小企業診断士としてIR支援を行う法人を経営しながら、講演や執筆も行っている。

比重:情報の非対称性(強)/時間(中)/レバレッジ(弱)

 

第3章 ディープゾーン

こどおじマスターK氏 ―― 制御できるものだけを制御し続ける人

もともとは「節約貯金ガチ部」というチャンネル名で、20代のうちに資産3000万円を突破した倹約家として知られていた。実家暮らしで家賃や光熱費を発生させず、浮いた金をひたすら積み立てに回す。派手さのない、ただ削って積むだけの生活を、20代という早い段階でここまで徹底できる人はそう多くない。

この物語がここ最近、大きく展開する。工場勤務をしていたところ、混合性結合組織病とシェーグレン症候群という難病を発症し、休職に追い込まれた。この病名や休職の経緯は、本人が動画のタイトルで自ら公表している情報である。傷病手当や障害年金だけでは心もとないという不安の中で、彼が取った行動は「倹約をやめる」ことではなく「倹約をそのまま投資に接続する」ことだった。新NISAの成長投資枠を核に、NASDAQ100やFANG+、さらには課税口座でのSOXL(半導体レバレッジ3倍)まで、生活防衛費以外のほぼすべてをハイテク資産に振り向けている。

体が思うように動かせなくなっても、変わらなかったのは「自分がコントロールできる範囲を、とことん詰める」という一点だ。倹約の対象が生活費から資産配分に移っただけで、やっていることの本質は20代の頃から変わっていない。レバレッジ商品の誤発注で大きな含み損を出したこともあるが、それも含めて包み隠さず記録を公開し続けている。

比重:レバレッジ(中)/時間(中)/情報の非対称性(弱)


笠原尊師氏 ―― 判断すること自体をやめられる人

個別銘柄の選定やタイミングの予測を一切行わない。証券会社の自動積立機能を使い、国内、海外、テーマ型、レバレッジ型を含む「全111銘柄」をあらかじめリスト化し、すべての銘柄に毎日各100円、合計で日額11,100円の自動買付が実行されるよう設定する。2023年1月に始めたこの積立は、1300日を超えて今も続いている。

投資家というと、何を買うか・いつ買うかを判断する仕事だと思われがちだが、この手法はその判断をあらかじめ全部放棄することで成立している。相場が暴落した日も設定はいじらず、自動実行された約定通知だけを淡々と眺め、「下落はリターンの原動力である」という自分の定義に従ってシステムを回し続ける。毎日同じ時間に届く111件の通知を淡々と見続けられる胆力こそが、この手法の実質的な中身だ。

比重:時間(強)/レバレッジ(中)/情報の非対称性(弱)


ルネ岩田氏 ―― 特撮と決算を同じ声量で語れる人

1983年愛知県一宮市生まれ、本名・岩田里志。20歳からお笑い芸人の道に入り、2006年には相方とコンビ「ルネッサンス」を結成したが、髭男爵の持ちネタと名前が被っていたため「ルネ」に改名するという不運を経験し、2015年にコンビを解散してピン芸人になった。ブレイクとは縁のない下積みの中、30歳から始めたのが株式投資だった。

彼のチャンネルには、サムネイルが赤枠の動画と青枠の動画が同じ一覧の中に並ぶ。赤枠はウルトラマンなど特撮ヒーローのおもちゃレビューや感想、青枠はキヤノンや円谷フィールズホールディングスといった企業の決算分析。テンションの高さで言えば、特撮は完全に趣味の熱量、投資は生活のかかった真剣勝負のはずだ。その二つを、同じ話し方、同じ登録者に向けて、上下関係なく交互に投稿し続けている。特撮の話をする芸人も、株の話をする専業投資家も他に大勢いるが、この二つを同じチャンネルで同じ声量のまま隣に並べている例は、ちょっと見当たらない。

そのちぐはぐさは投稿の並びだけでなく本人の情報開示にも表れている。YouTubeの概要欄には「総資産、元手の金額は秘密。怖いから」と自分で書いている一方、株で得た利益でウルトラマンの玩具を買ってレビューする様子は隠さず公開する。守りたいものと見せたいものの線引きが、世間の感覚とは少しずれている。

比重:時間(強)/情報の非対称性(中)/レバレッジ(弱)

 

第4章 藤本茂氏 ―― 老後を休まない人

日本の個人投資家の中でも異質な存在が、88歳の現役デイトレーダー・藤本茂氏である。1936年、兵庫県の農家に4人きょうだいの末っ子として生まれた。高校卒業後にペットショップに勤めた19歳のとき、証券会社の役員に勧められて投資を始めた。その後、麻雀店の経営を経て、1986年に専業投資家に転じている。バブル崩壊で資産10億円が2億円まで目減りした時期もあったが、現在は資産18億円前後(近年の取材では20億円規模とも報じられる)まで積み上げ、月6億円ほどの取引を続けている。

一日は午前2時に始まる。米国市場の動向とADRの株価をチェックし、夜間の地合いを頭に入れる。午前4時に配達される日本経済新聞を端から読み込み、気になった企業の記事をハサミで切り抜いて専用ノートに貼り、独自のランクをつける。市場が開けば、3台のモニターに向かって気配値を見続け、決算発表のタイミングでは発表された数字と事前のコンセンサス、株価の反応のズレを瞬時に判断して注文を出す。ネット証券の低い手数料を活かして信用取引も機動的に組み合わせ、長期保有に切り替える際は現物への転換を行う。リビングにはインコが一羽いて、相場が動いている間もその声だけがモニターの静寂を破るのだという。

一般的な「老後の楽しみ」は、たいてい相場から降りたあとに設計される。配当だけで暮らす、悠々自適に過ごす、といった形で。藤本氏はその発想そのものを持っていない。老後になっても降りずに市場に居続けることを、本人は楽しみだと語る。

「株は友達じゃない、兄弟や。毎日付き合っとらんと分からん」 「タンス預金じゃつまらんで。ハラハラドキドキして、少しでも小遣いが増えたら嬉しいやないか」

投資歴およそ70年、そのうち超短期の売買を70年続けてきたという事実だけは、他の誰にも真似のできない蓄積になっている。

比重:レバレッジ(強)/情報の非対称性(強)/時間(手法としては弱、しかし継続年数が別次元の強みになっている)

 

第5章 分類マップ ―― 8人はどこに賭けているか

ここまでの比重を一枚にまとめると、こうなる。

投資家 時間(複利) レバレッジ 情報の非対称性
テスタ氏
ちょる子氏
ナスダッ子氏
kenmo氏
こどおじマスターK氏
笠原尊師氏
ルネ岩田氏
藤本茂氏 弱(継続年数は別)

こうして並べると、3つの変数のどこに賭けるかを選んでいるのは頭ではなく、その人が置かれた状況や元々の性分の方だと分かる。反復に耐えられる人は情報の非対称性を取りに行き、待つことに耐えられる人は複利を取りに行く。こどおじマスターK氏がボラティリティの高い資産に集中しているのは、体が思うように動かない状況の中で選び取れる数少ない手段がそれだったからでもある。変数の選び方自体は理屈で説明できても、それをここまで徹底できる理由は理屈の外にある。

念のため断っておくと、この記事はどの手法も推奨するものではない。レバレッジや信用取引を伴う手法は、ここで紹介した以上の資産を失うリスクも同じだけ抱えている。ここに書いたのは、8人がそれぞれの事情の中で選び取った生き方の記録であって、再現を勧める攻略法ではない。

 

むすび

口座の残高や利回りという結果の裏側にあるのは、どの変数にどれだけ賭けるかという選択と、それを他人が驚くレベルまで続けられるかという、ただそれだけのことだ。8人に共通しているのは手法ではなく、一つのことを普通の人がやめる地点を超えて続けられる、その一点かもしれない。