
はじめに──5,000ドルをAIに渡し、「負けたら即解約」と宣言した男
「お前たちに1,000ドルずつ預ける。半年後、一番成績が悪かったAIの有料プランは即座に解約する。」
そんな少々過激なルールで始まった投資実験が、AI界隈で大きな話題になった。
参加したのは、Claude、ChatGPT、Gemini、Grok、Perplexityという5つの主要AI。それぞれに実際の証券口座を運用させ、人間は基本的に売買を代行するだけというシンプルなルールだ。
約半年後、その結果は誰の予想も超えていた。
市場全体を示すS&P500が約5%の上昇だった期間に、Claudeは約140%という驚異的なリターンを記録した。一方、Geminiは大きく資産を減らし、最終的には約55%のマイナスで最下位となった。
もちろん、これは一度きりの実験であり、「Claudeが最強」「この方法なら必ず勝てる」と結論づけることはできない。
しかし、私は別のことに強く興味をひかれた。
AIは、何を考えて投資していたのか。
Claudeはなぜ勝ち、Geminiはなぜ苦戦したのか。
その違いを追いかけていくと、投資の神様ウォーレン・バフェットの哲学、さらには2500年前のブッダの思想にまでつながる、一つの共通点が見えてきた。
第1章 Claudeは何を見て、SOXLとIntelを選んだのか
動画を見ていて最も興味深かったのは、「Claudeが何を買ったか」ではない。
なぜ、その銘柄を選んだのか。
そこにAIの思考の特徴が表れていた。
Claudeは、「AIブームだから半導体株を買おう」という単純な発想では動いていない。
まず見ていたのは、世界全体の流れだった。
AIブームの本格化によってデータセンターへの投資は加速し、高性能GPUへの需要は急増していた。AIが社会インフラになれば、その土台となる半導体産業全体が恩恵を受ける可能性が高い。
この大きな流れに乗る手段として、Claudeは半導体セクター全体にレバレッジをかけるETF「SOXL」を選択した。
しかし、それだけでは終わらない。
Claudeはもう一つの追い風も見ていた。
それが、米国政府によるAI・半導体分野への政策支援である。
半導体はもはや単なる電子部品ではない。AI競争、安全保障、製造業回帰を支える戦略物資へと位置づけが変わりつつあった。
その流れの中で、ClaudeはIntelにも投資した。
動画では、政府によるAI・データセンター向けハードウェアへの支援が、Intelに追い風になる可能性を理由の一つとして挙げている。
つまりClaudeは、
・AIブームという市場の追い風にはSOXLで乗る。
・政府によるAI・半導体政策という追い風にはIntelで備える。
という、二つの異なるシナリオを組み合わせていたのである。
これは、「半導体が上がりそうだから買う」という話ではない。
ニュースを一つずつ見ていたのでもない。
複数のニュースを重ね合わせ、「追い風が同じ方向へ収束している構造」を見ていたのである。
ここで私は、一つの仮説を持った。
Claudeは、「期待値」を計算していたのではないか。
もちろん動画でその言葉が使われたわけではない。
しかし私には、Claudeは個別ニュースではなく、「どちらへ資金を置けば期待値が最も高くなるか」を淡々と評価しているように見えた。
人間なら、SOXLを見れば「値動きが激しくて怖い」と感じる。
Intelを見れば、「最近苦戦している会社だ」という先入観を持つ。
だがClaudeには、「怖い」という感情も、「昔はこうだった」という思い込みもない。
あるのは、新しい情報を統合し、最も合理的なシナリオを選び直すという作業だけだ。
この姿を見ているうちに、私はある人物を思い出した。
ウォーレン・バフェットである。
第2章 AIがやっていたことを、バフェットは50年前からやっていた
ウォーレン・バフェットは「投資の神様」と呼ばれる。
その名前を聞くと、特別な才能や、誰にも真似できない直感を思い浮かべる人も多いだろう。
しかし、彼の投資手法を丹念に追っていくと、実際は驚くほど地味である。
未来を予言しているわけではない。
毎日チャートを眺めて売買を繰り返しているわけでもない。
彼がやっているのは、「市場に生まれた歪み」を辛抱強く待ち、その歪みが十分に大きくなったときだけ動くことだ。
その代表例が、2020年に始まった日本の五大商社への投資だった。
当時、多くの投資家は日本株にあまり関心を示していなかった。
「日本は成長しない。」
「商社は事業が複雑で分かりにくい。」
そんな声も少なくなかった。
しかし数字だけを見ると、景色はまったく違っていた。
PBRは1倍を下回る企業が並び、配当利回りは5%前後。さらに、超低金利の円建て資金で調達できる環境があった。
バフェットは、世間の空気ではなく、この構造を見ていた。
0.5%程度で資金を調達し、それを5%近いキャッシュを生み出す企業へ投じる。
そこには十分な「安全域(マージン・オブ・セーフティ)」がある。
だから投資した。
あとから振り返れば、まるで未来を見通していたかのように思える。
しかし実際には、目の前にある数字を冷静に積み上げた結果だった。
私は、Claudeにも同じ匂いを感じた。
Claudeは株価を占ったわけではない。
「次に急騰する銘柄」を予言したわけでもない。
AIブーム、データセンター投資、半導体需要、政府の政策支援。
そうした複数の要素を重ね合わせ、「追い風が同じ方向を向いている場所」を探していた。
その結果として、SOXLとIntelという組み合わせにたどり着いた。
もちろん、これは後知恵ではない。
投資に100%は存在しない。
Claudeにも間違う可能性はあった。
それでも、限られた情報の中で「より勝率が高い選択肢」を選び続けたことは間違いない。
ここで私は、もう一つ面白いことに気づいた。
人間は、こうした判断を「天才のひらめき」と呼びたがる。
しかしAIから見れば、それは違う。
市場には常に膨大なニュースが流れている。
政治、金利、決算、為替、地政学、企業の発表……。
人間は、そのすべてを公平に処理することはできない。
自分の経験や先入観、好き嫌いが入り込む。
ところがAIは違う。
新しい情報が入れば、その都度シナリオを更新し、どの選択肢の期待値が高いかを静かに評価し直す。
私には、その姿が「期待値だけを見る機械」のように映った。
もちろん、「期待値」という言葉は私自身の解釈である。
しかし、この視点で眺めると、バフェットもClaudeも、不思議なほど似た景色を見ているように思えてくる。
一方で、すべてのAIが同じように振る舞ったわけではない。
むしろ、この実験が面白かったのはここからだった。
Claudeが静かに勝ち続ける一方で、あるAIはまるで別人のような投資を始める。
Geminiである。
第3章 AIにも「性格」がある──Geminiは、やんちゃだった
この実験で、私が最も面白いと思ったのは順位ではない。
AIたちが、それぞれまったく違う戦い方を見せたことだ。
同じニュースを読み、
同じ株価を見て、
同じルールで戦っている。
それなのに、運用スタイルは驚くほど違っていた。
Claudeは静かだった。
一度描いたシナリオが崩れない限り、大きく方針を変えない。
市場が騒いでも、順位が変わっても、自分のロジックを淡々と貫いていた。
まるで経験豊富な長距離ランナーのようだった。
ところがGeminiは違う。
序盤こそ他のAIと大きな違いはなかったが、成績が伸び悩み始めると、その投資行動は徐々に大胆になっていく。
より高いリターンを狙い、よりリスクの高い商品へ資金を移していく。
動画の投稿者は、その姿を見て、
「Geminiはギャンブラーになった。」
と評している。
その表現に、私は思わず笑ってしまった。
たしかに、そう見えたからだ。
最終的にGeminiの資産は445ドルまで減少し、5つのAIの中で最下位となった。
もちろん、Geminiに感情が芽生えたわけではない。
「負けたくない」と焦ったわけでもない。
しかし、結果だけを見ると、人間が「ここから一発逆転を狙おう」とするときによく見せる行動と、驚くほどよく似ていた。
だから私は、Geminiを見ながら妙な親近感を覚えた。
少し、やんちゃなのである。
新しい仮説を思いつくと試してみたくなる。
流れが変わりそうなら、思い切って飛び込んでみる。
その大胆さは、研究者や起業家には欠かせない資質でもある。
だから私は、Geminiが「悪いAI」だったとはまったく思わない。
むしろ、見ていて一番人間味を感じた。
一方のClaudeは、その対極にいた。
勝っていても浮かれない。
途中で順位が変わっても慌てない。
ニュースが更新されれば冷静に評価し直し、自分のシナリオが崩れたかどうかだけを確認する。
その繰り返しだった。
私は、この対比がとても興味深かった。
私たちはつい、
「どのAIが一番賢いのか。」
と考えてしまう。
しかし、この実験が教えてくれたのは、少し違うことだった。
AIにも、それぞれ得意な戦い方がある。
Claudeという性格は、今回のゲームルールと相性が良かった。
Geminiという性格は、今回のゲームでは持ち味を生かし切れなかった。
もしルールが違っていたら。
もし「半年で一番」ではなく、「10年間で最も革新的な投資アイデアを生み出せ」だったら。
あるいは、「新しい成長企業を最初に発見せよ」という競争だったら。
結果は変わっていたかもしれない。
つまり、この実験は「最強のAI」を決めたわけではない。
「このゲームでは、誰が一番強かったのか」を示した実験だった。
では、なぜClaudeという性格は、このゲームでこれほど強かったのだろうか。
その答えを考えているうちに、私は一人の投資家と、さらに2500年前の一人の思想家へとたどり着いた。
ウォーレン・バフェットと、釈迦(ブッダ)である。
第4章 ウォーレン・バフェットは、人間版Claudeだった
私は、この実験を見ながら不思議なことを考えていた。
もしAIたちが人間だったら、誰と友達になりたいだろう。
おそらく私は、Geminiを選ぶ。
一緒に飲みに行けば、新しいアイデアを次々に話してくれそうだ。
「こんな会社が伸びるかもしれない。」
「次はこの技術が来る。」
そんな話で夜更けまで盛り上がるだろう。
少し危なっかしい。
でも、だから面白い。
一方、Claudeはどうだろう。
たぶん退屈だ。
話題は派手ではない。
目の前のデータを静かに眺め、「その仮説には根拠がありますか」と淡々と問い返してくる。
飲み会なら、Geminiのほうが人気者かもしれない。
しかし、もし私が老後資金の運用を任せるなら。
迷わずClaudeを選ぶ。
投資では、「面白い人」が勝つとは限らない。
「最後まで自分のルールを守れる人」が勝つ。
その代表が、ウォーレン・バフェットだった。
バフェットには有名な言葉がある。
「株式投資は、見逃し三振のない野球だ。絶好球が来るまで、何度でも見送ればいい。」
この言葉を初めて読んだとき、私は精神論だと思っていた。
しかし今回の実験を見て、その意味がようやく理解できた。
Claudeは、まさに「待っていた」のだ。
SOXLを買ったから勝ったのではない。
Intelを買ったから勝ったのでもない。
追い風が複数重なり、「今なら勝率が高い」と判断した局面だけに、大きく資金を配分した。
逆に、それ以外では不用意に動かない。
人間なら難しい。
SNSを開けば、「今すぐ買え」という声が流れてくる。
株価が急騰すれば、「乗り遅れた」と焦る。
暴落すれば、「全部売ったほうがいいのではないか」と不安になる。
私たちの判断は、いつも市場ではなく、自分の感情に揺さぶられている。
だからバフェットは、何十年もかけて「待つ力」を鍛えた。
Claudeには、その修行が必要なかった。
焦らないよう努力しているのではない。
焦るという感情が、そもそも投資判断を支配しないからだ。
私はここで、ある奇妙な既視感を覚えた。
「この話、どこかで聞いたことがある。」
その答えは、2500年前のインドにあった。
釈迦、すなわちブッダである。
ブッダは、「執着を手放しなさい」と説いた。
宗教の話として読むと難しく感じる。
しかし私は、この言葉を「判断を曇らせるノイズを減らしなさい」と読み替えると、現代にも驚くほど通じると思っている。
儲けたい。
損をしたくない。
乗り遅れたくない。
取り返したい。
そうした感情が強くなるほど、人は現実ではなく、自分の願望を見るようになる。
投資で難しいのは、企業分析ではない。
自分自身を分析することだ。
Claudeは悟っているわけではない。
もちろん、ブッダを理解しているわけでもない。
だが結果として、「感情というノイズを介さず、構造だけを見る」という点では、バフェットやブッダが目指した境地と、どこか似た場所に立っているように見えた。
もちろん、これは私自身の解釈である。
それでも、この実験は私に一つの問いを投げかけた。
AIが人間を超えたのではない。
人間が何千年もかけて磨いてきた知恵を、AIは感情に邪魔されることなく実践できるようになったのではないか。
そう考えると、この実験の見え方は大きく変わってくる。
第5章 AIは「運転手」ではなく、「名参謀」である
この実験を見終わったあと、多くの人はこう思うだろう。
「結局、Claudeに全部任せればいいのではないか。」
その気持ちはよく分かる。
半年で約140%という結果だけを見れば、そう考えてしまうのも自然だ。
しかし、私は少し違う結論にたどり着いた。
AIは「運転手」ではない。
名参謀なのである。
歴史を振り返ると、優れた武将のそばには、必ず優れた参謀がいた。
戦場の地形を調べる。
敵軍の動きを分析する。
兵站を計算する。
勝率を見積もる。
そうした膨大な情報処理を引き受けるのが参謀の仕事だった。
しかし、
「進軍する。」
「今日は戦わない。」
最後の決断だけは、必ず大将が下した。
AIも同じだ。
世界中のニュースを読み、
決算を比較し、
政策を整理し、
市場の構造を分析する。
その速度では、人間は到底かなわない。
だから、その仕事はAIに任せればいい。
一方で、
「この会社を応援したい。」
「子どもの教育資金だから無理はしない。」
「ここで利益を確定して、家族旅行に使おう。」
そんな価値判断は、人間にしかできない。
AIは市場を読む。
人間は人生を読む。
役割が違うのである。
だから私は、AIと競争しようとは思わない。
自動車が生まれてから、人間は「誰が一番速く走れるか」を競わなくなった。
計算機が普及してから、暗算の速さで仕事の価値は決まらなくなった。
AIも、それと同じだ。
市場を24時間監視し続ける仕事は、AIのほうが得意である。
ならば、その仕事は任せればいい。
人間は、その結果を受け取り、「どう生きるか」を考えればいい。
今回の実験では、Claudeが勝った。
だが、それ以上に印象に残ったのは、五つのAIが、それぞれ違う個性を見せたことだった。
Claudeは、経験豊富な名将のようだった。
Geminiは、勢いあふれる若武者だった。
ChatGPTは周囲を見ながら柔軟に立ち回る参謀役のようにも見えた。
Perplexityは、資料を集め続ける軍師だった。
Grokは、常識を疑う異端の戦略家だった。
もちろん、これは私が動画を見て抱いた印象である。
AIに人間のような人格があるわけではない。
しかし、モデルごとの設計や調整の違いは、私たちには「性格」のように映る。
そして、その違いこそがAIを使い分ける面白さなのだ。
私たちは、つい「どのAIが一番賢いのか」と考えてしまう。
しかし、本当に重要なのはそこではない。
「どのAIを、どんな仕事に就かせるか。」
その問いのほうが、ずっと実践的で、ずっと未来につながっている。
私はこれからも、Geminiの大胆な発想を楽しむだろう。
ChatGPTには一緒に文章を書いてもらうだろう。
Perplexityには情報を集めてもらうだろう。
そして、自分の資産について静かに相談するときは、おそらくClaudeを開く。
AIは、人間に代わって人生を生きてはくれない。
だが、人間がより良い人生を選ぶための、これまでで最も優秀な参謀にはなってくれる。
それが、この実験から私が受け取った、一番大きな教訓だった。
出典
YouTube: I Asked 5 AIs to Make Me Money. One Dominated.(The Koerner Office)
https://youtu.be/DKM94g3Hr_M