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ニュースの「構造」と、個人的な視点が交わる考察ログ

370兆円の国家戦略が名指しした「ゲーム24.5兆円」の正体

働くAIと遊ぶ人類とが、静かに交差する2040年の対比の構造(イメージ)

私たちが日々、「オルカンかS&P500か」という、もはや様式美と化した投資論争に興じている間に、国家の産業構造そのものを塗り替えかねない超弩級の未来予測図が、内閣官房「日本成長戦略会議」から静かに提示されていた。

2026年6月24日、第5回の合同会議(経済財政諮問会議・日本成長戦略会議)で公表された「戦略17分野における『主要な製品・技術等』の官民投資ロードマップ」。この資料が示す数字は、率直に言って壮大すぎる。政府は日本の経済安全保障の確保と産業競争力強化に向け、2040年度までに累計で370兆円超という官民投資を行う方針を掲げた。

そしてこのロードマップを一項目ずつ読み解いていくと、ある一点で目が止まる。半導体に次いで単一項目として突出した規模の投資が想定されているのが、他でもない「ゲーム」だったという事実だ。

なぜ国家戦略の中核に、子供の遊び道具だったはずのゲームが座っているのか。そして、その答えにいち早く気づいた人間が、静かに、しかし着実に取れる行動とは何か。フラットに、順を追って見ていきたい。

 

第一章 国家が描く2040年、三本の矢と「可処分時間」という空白地帯

ロードマップの中身をパズルのように組み合わせると、大きく三つの投資の柱が浮かび上がる(※以下の三分類は政府資料の分野名そのものではなく、62項目の内訳を筆者が独自に組み替えたものである。「フィジカルAI」の10.5兆円は下記①にも②にも登場するが、これは同じ予算を二重に積み上げているのではなく、①では他のAI・半導体投資との合計として、②では自動運転技術との組み替えとして、別の切り口で見せているだけである点にご留意いただきたい)。

AI・半導体(合計101.6兆円) ―― フィジカルAI(AIロボット)に10.5兆円、その頭脳となる半導体に68.0兆円、特定分野に特化したバーティカルAIに23.1兆円。AIロボットとその頭脳を支える先端半導体という組み合わせを、国内で完結させようという構想だ。

フィジカルAI・自動運転(合計18.7兆円) ―― フィジカルAI(ロボット)の10.5兆円のうち実装領域と、自動運転技術の8.2兆円を合わせた額。工場、物流、介護といった「きつい・危険・単調」な物理労働を、ロボットと自動運転車が肩代わりする世界を目指す。

デジタルAX/DX基盤(合計41.1兆円) ―― 政府・自治体のAX/DX基盤7.4兆円、クラウド・データセンター・蓄電池32.7兆円、先進的セキュリティ製品1.0兆円。行政や民間の定型業務をAIエージェントが引き受け、ホワイトカラーの事務作業を圧縮していく計画である。

この三本の矢がすべて実装された2040年、社会はどう変わっているか。ロードマップの数字を素直に読む限り、有力な一つの読み筋として浮かび上がるのは、人間が生きるための義務としての物理労働・事務労働から相当程度解放され、可処分時間を大量に手にする社会だ。

ここで投資家として、素朴だが避けて通れない問いが立ち上がる。自動化がここまで進み、人類が未曾有の余暇を手にしたとき、その溢れた時間とお金は、いったいどこに流れ込むのか。

これは政府資料が明示的に答えている問いではない。ただ、同じロードマップの同じ17分野の中に、コンテンツ分野――ゲーム・アニメ・マンガ・音楽・実写――への投資が並んで載っている、という事実はある。三本の矢とコンテンツ投資を結びつけて読むのはあくまで筆者の解釈だが、この並びを見て何かを感じない方が難しい。

 

第二章 半導体の次に来るのが「ゲーム」である理由

370兆円のロードマップに並ぶ62の「主要な製品・技術等」のうち、単一項目として20兆円を超える規模の投資が想定されているものは数えるほどしかない。最大の半導体(68.0兆円)に次いでランクインしているのが、ゲーム(24.5兆円、2033年度まで)だ。

同じコンテンツ分野の中でも、アニメが3.3兆円、マンガが1.6兆円、音楽が3.0兆円、実写が1.3兆円と続き、コンテンツ全体の合計は33.7兆円にのぼる。その7割以上をゲーム一分野が占めている計算になる。しかも注目すべきは達成期限で、半導体やロボットが2040年度までを見込むのに対し、ゲームは2033年度までとされている。他の重点分野より7年も前倒しで、24.5兆円もの官民マネーが一気に投じられる設計だ。

政府側が公表している選定理由を確認すると、次のような論点が挙げられている。日本発コンテンツの海外売上のおよそ6割(3.4兆円相当)をゲームが占めており、市場規模6兆円の家庭用ゲーム機市場では既に半分程度のシェアを握っているという実績がある。一方で、市場規模18兆円のモバイルゲームや7兆円のPCゲーム市場でのシェアは数%に満たず、伸びしろが大きいと位置づけられている。加えてゲームはアニメや実写など他分野への波及効果が大きく、ソフトパワー強化への貢献も期待されているという。

これは政府文書に書かれた選定理由だが、投資家としてもう少し構造を掘り下げると、ゲームがここまで重視される背景には、少なくとも三つの構造変化が透けて見える。

理由①:デジタル赤字を相殺できる、数少ない外貨獲得エース 日本は現在、海外のクラウド・SNS・デジタル広告への支払いという形で、毎年数兆円規模の「デジタル赤字」を計上し続けている。これを真正面から相殺し、海外から富を引っ張ってこられる産業として、任天堂・ソニー・カプコンといった日本のゲーム企業は数少ない候補の一つだ。

理由②:可処分時間の奪い合いにおける、粘着力の高さ 2040年に向けて労働から一定程度解放された人々は、増えた「ひま」をどう使うかという課題に直面する。受動的に眺めるだけの動画コンテンツと違い、ゲームは「自分で操作し、成長し、他者とつながる」能動的な体験を提供する。一度その世界観のファンになったユーザーは離れにくく、時間を確保し続けやすいプラットフォームだと言える。

理由③:AIによる制作コストの圧縮と、利益率の変化 一般的なイメージとは裏腹に、現在のゲームやアニメの制作は数百人〜数千人規模のクリエイターが長期間かけて作る労働集約型のビジネスだ。だが今後、生成AIやフィジカルAIが制作工程に組み込まれれば、グラフィック生成やデバッグといった工数のかなりの部分が圧縮される可能性がある。一方で「マリオ」や「ガンダム」のような確立したIPの価値は、代替品では満たされないという性質上、簡単には目減りしない。需要が横ばい〜拡大する一方でコストだけが下がるなら、利益率が改善する余地は大きい。

政府がゲームに24.5兆円という規模の期待を寄せているのは、これが単なる娯楽ではなく、2030年代のデジタル経済圏において効率よく富を生み出せる知財プラットフォームだと見立てているからだろう。

 

第三章 市場はまだ気づいていない、という不条理

これほど筋の通った成長ロジックが揃っているにもかかわらず、金融市場における「日本のゲーム・エンタメセクター」への注目度は驚くほど低い。

東証に上場する日本の主要ゲーム・アニメ企業をパッケージにしたETFに「グローバルX ゲーム&アニメ-日本株式ETF(銘柄コード:2640)」がある。ソニーグループ、コナミグループ、バンダイナムコHD、カプコン、任天堂、スクウェア・エニックスHD、ネクソンといった世界的IPを抱える企業群にまとめて投資できる、事実上ほぼ一択の商品だ。構成銘柄の下位にはANYCOLOR(にじさんじ運営)やカバー(ホロライブ運営)といったVTuber事務所も名を連ねており、想像以上に「見たことのある社名」で埋め尽くされている。それにもかかわらず、この銘柄は上場以来、時価総額にして数十億円規模というきわめて小さな水準にとどまり続けている(2026年7月16日時点の時価総額は約41億円)。ロードマップの発表が今年6月24日だったことを踏まえると、この規模感がその後どう変化していくかは、今後のデータで確認していく必要がある論点だ。

面白さは間違いないのに、なぜここまで話題にならないのか。そこには金融市場特有の「すれ違い」がある。

謎解き①:プロは「小さすぎて買えない」 機関投資家には、純資産総額が一定規模を下回るファンドには投資しないという内規があることが多い。一度に数十億〜数百億円を動かす彼らが小型ファンドに資金を入れれば、市場そのものを歪めてしまうからだ。中身は魅力的でも、器が小さいために巨額マネーが入りたくても入れないという構造的なジレンマが存在する。

謎解き②:個人投資家の視線は「オルカン・半導体」に集中している 新NISA以降、個人投資家の関心は「オルカン」「S&P500」「FANG+」、あるいは米エヌビディアのような半導体銘柄に強く偏っている。特定の国の特定セクターに冷静な目を向ける投資家は、まだ多数派とは言い難い。

謎解き③:ゲームを「娯楽」としてしか見ないバイアス 多くの人はゲームを「子供の遊び」「ヒット不発のリスクがあるギャンブル」という古いフィルターで捉えがちだ。世界中の人々の可処分時間を独占しうる知的財産ビジネスであり、国家のロードマップとAI革命の交差点に位置するセクターだという見方は、まだ少数派だろう。

投資の世界では「論理は筋が通っているのに、世間がまだ気づいておらず、不条理に放置されている状態」こそが長期投資家にとっての機会になりうる、とはよく言われる話だ。もっとも、これはあくまで一つの仮説であり、将来の株価上昇を保証するものではないことは押さえておきたい。

 

第四章 王道インデックスと比べたときの「期待値」の位置づけ

では、このゲーム・エンタメセクターへの超長期投資は、オルカン・ナスダック100・FANG+といった王道インデックスと比べて、どのようなポジションにあると考えられるか。あくまで一つの見立てとして整理してみる。

対 オルカン(全世界株式) オルカンは「世界全体の平均点」を安全に取りにいく守りの資産だ。対して日本のゲーム・エンタメセクターは、国策による集中投資とAIによるコスト構造の変化という、明確な後押し要因を持つ。長期でオルカンを上回ることを狙うなら、こうした攻めの枠に位置づける意味が出てくる。

対 ナスダック100 ナスダック100は米国の優良ハイテク企業100社の集合体で、過去10年強力なリターンを出してきた実績がある。ゲームセクターはハイテクそのものではないが、「AIの進化を営業利益率の改善に直接変換できる」という点では、近い成長曲線を描く可能性がある。

対 FANG+ FANG+は米国ビッグテック10社に超集中投資する、現在の市場で最も勢いのある商品の一つだ。ただしITプラットフォームやAIインフラは、規制リスクや技術の陳腐化リスクによって10〜15年単位で覇権が入れ替わることが珍しくない。一方で「マリオ」「ポケモン」「ガンダム」「遊戯王」といった日本のIPは、30年、40年と時間が経っても価値が落ちるどころか、世代を超えて受け継がれている。超長期で「売らずに持ち続ける」前提に立つなら、陳腐化しにくいIPの寿命という点でFANG+にはない強みがあると言える。

いずれも将来を保証する話ではなく、あくまで構造上の比較にすぎない。実際のリターンは市場環境や各企業の経営次第で大きく変わりうる点は留意しておきたい。

 

第五章 具体的な選択肢と、超長期で持ち続けるという発想

ここまでの話に一定の説得力を感じたなら、この国策コンテンツセクターへ、NISAの成長投資枠を使って日本円で投資できる選択肢はすでに東証に用意されている。現時点で比較的絞りやすい候補は次の2つだ。

候補①:ゲーム・アニメの「純度」で選ぶなら グローバルX ゲーム&アニメ-日本株式ETF(銘柄コード:2640)。信託報酬は年0.649%(税込)。ソニーグループ、コナミグループ、バンダイナムコHD、カプコン、任天堂の5社で組入比率の約半分を占める(2026年5月末時点)、世界的IPを自社でコントロールする企業群への純度の高いパッケージだ。

候補②:保有コストの安さで選ぶなら NEXT FUNDS 日経エンタメ・コンテンツ株指数連動型上場投信(銘柄コード:586A)。2026年6月9日に上場したばかりの新しいETFで、信託報酬は年0.385%(税込)と、この分野では低コストな部類に入る。日本経済新聞社が算出する「日経エンタメ・コンテンツ株指数」に連動し、時価総額上位20銘柄で構成されるため、音楽や映画なども含めた総合エンタメへの分散になる分、ゲーム・アニメへの純度は2640よりやや低くなる。管理会社は野村アセットマネジメントだ。

大手運用会社がこの分野に低コストな商品を投入してきたこと自体、コンテンツ産業へ本格的にマネーが向かい始めているという一つのサインではある。今後、似たような投資信託やETFが増えていく可能性は十分にあるだろう。

積み立てる場合の考え方としては、ポートフォリオ全体の3〜5%程度(攻めても10%以内)を目安にこの枠へ振り向け、2033年の国策上の一区切りまでの数年間、NISAの成長投資枠でコツコツ買い付けていく、というのが一つのオーソドックスな発想になる。その後は買い増しをやめ、超長期でただ持ち続ける、という選択肢もありうる。

なお、これは特定の銘柄への投資を勧誘するものではない。ETFも個別株と同様に価格変動リスクを伴い、元本が保証されるものではない。信託報酬や指数の構成、リスクの詳細は各運用会社が公表する目論見書で必ず確認したうえで、投資判断はご自身の責任で行っていただきたい。

 

おわりに――自分がプレイしないゲームだからこそ

自分がゲームを一切プレイしないとしても、「人類の可処分時間を巡るビジネスモデル」というフラットな視点にいくらかの魅力を感じたなら、今すぐ確認できる材料はすでに手元に揃っている。

半導体やハイテクインデックスという「未来の社会を動かすインフラ」を片手に持ちながら、人類が最後に時間を使う先である「知財・ゲームセクター」をもう片方の手に仕込んでおく。自分がプレイしないゲームだからこそ、日々の新作の評判や株価の目先のノイズに振り回されることなく、ただ冷静にデータの答え合わせを待つことができる――というのが、このロードマップを読んだ後に浮かんだ、一つの静かな仮説である。

 


本記事は、内閣官房「日本成長戦略会議」第5回会合(2026年6月24日)で公表された資料1・資料2、および各種公開情報をもとに構成しています。数値や制度は今後見直される可能性があり、投資助言を目的とするものではありません。