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鹿島アントラーズはなぜ強くなった? メルカリが変えた“体験設計”と観客増の真実

スタジアムへ吸い込まれる赤い波(イメージ)

序章|歴史あるクラブに訪れた“静かな転換点”

2024年、鹿島アントラーズは9年ぶりにJ1リーグの頂点に返り咲いた。
この優勝は、戦術や選手の働きだけで説明できる単純な物語ではない。クラブの内部では、5年前から“静かな革命”が着実に進んでいたからだ。

鹿島は1993年のJリーグ開幕時から続く“オリジナル10”の名門であり、最多タイトル数を誇る勝者の象徴でもある。しかし、2010年代後半からは観客数の伸び悩み、収益の頭打ち、高齢化するファン層など、外からは見えにくい課題が積み上がっていた。

そして2019年、クラブは大きな転換点を迎える。
長年の親会社だった日本製鉄(旧・新日鉄住金)が株式を売却し、新たな経営権を得たのがフリマアプリ大手のメルカリだった。

「テック企業にクラブ経営ができるのか?」
そんな疑問や懐疑の声すら上がった。

しかし、メルカリが見据えていた場所は、ピッチの上ではなく、スタジアムの中の“観客の目線”だった。

 


第一章|小さすぎて気づかれない改善が、クラブを変え始めた

進化したスタジアムの当日体験(イメージ)

メルカリが導入した取り組みを振り返ると、その多くは派手ではない。
しかし、どれも「本質を押さえている」。

 

キャッシュレス化が“ストレスのない体験”を作った

カシマスタジアムでは、2020年から段階的にキャッシュレス決済が整備された。
特に飲食売店では、休日の混雑で長蛇の列ができ、“並ぶ苦痛”がファンの離脱要因だった。

キャッシュレス化によって会計処理が早まり、回転率が改善し、
「試合前に買えない」という不満が減少した。

それはUX(ユーザー体験)の世界では当たり前の発想だが、
Jクラブの現場では大きな一歩だった。

 

試合“前後”に楽しめる“滞在型のスタジアム”へ

イベントの増加、家族向けブース、場外グルメの導線整理。
どれも「また来たい」と思わせる仕掛けであり、

  • 来場者の滞在時間が伸びる

  • 支出の機会が増える

  • スタジアムの熱量が上がる

という相乗効果が生まれた。

メルカリはアプリ運営で「ユーザーの滞在時間の価値」を熟知していた。
だからスタジアムにも同じ思想を持ち込んだ。

 

小学生以下無料──未来のファンへの投資

2022年以降、鹿島は小学生以下の無料化を積極的に展開した。
子どもが来れば、親も来る。家族で来れば、体験が思い出に変わる。

これは短期的な収益を削る判断だが、
長期では“未来の常連客”を増やす極めて合理的な施策だ。

 


第二章|数字が示す変化──観客は確実に戻ってきていた

体験を設計する会議の裏側(イメージ)

ここで、鹿島の観客動員データを見る。
(以下、Jリーグ公式発表のデータを基に構成)

  • 2018年:平均 17,595人

  • 2019年:平均 18,846人(+7%)※メルカリ経営権取得の年

  • 2020〜2021年:コロナで入場制限

  • 2022年:平均 17,803人

  • 2023年:平均 20,468人(大幅増)

  • 2024年:平均 20,000人台前半(概ね前年比横ばい)

重要なのは、2023〜2024年の20,000人超えの安定ラインだ。
Jリーグ全体でも、2万人を安定して動員できるクラブは上位数チームしかない。

観客が戻った → 収入が増えた → チームへの投資が可能になった

この因果は、クラブ経営では絶対に無視できない。

スポンサー価値も「露出数=来場者数」で決まるため、観客の回復はそのままスポンサー収益にも跳ね返る。

鹿島は、勝って観客が増えるのではなく、
観客を増やすことで勝てる体制に入り直したのだ。

 


第三章|“投資できるクラブ”が、強化の循環を取り戻した

行動データが示すファンの動線(イメージ)

スタジアム体験改善による収益回復は、強化にも波及した。

補強の選択肢が広がり、チームの層が厚くなった

メルカリ体制下の鹿島は、
即戦力補強と若手育成の両方をバランスよく進めた。

  • コンディション分析の体制強化

  • 外国籍選手の計画的な補強

  • 育成組織の強化とトップ昇格ルートの再整備

いずれも「費用を投下できる経営」だからこそ実現する。

 

UX思想は“現場のサッカー”にも波及する

UXの思想とは、「ユーザーが快適に目的を達成できる環境を整える」こと。

スタジアムではファンが“快適”になった。
クラブハウスでは選手が“最適な準備”ができる環境づくりが進んだ。

  • 適切な栄養

  • トレーニング環境の合理化

  • データ分析の強化

サッカーは細部の積み重ねだ。
適切な“準備のUX”が整うことで、戦い方そのものに安定感が出た。

 


終章|優勝は偶然ではない──UXがクラブの未来を変えた

右肩上がりの観客数(イメージ)

2024年のJ1制覇は、選手が勝ち取った成果である。
しかしその背後には、メルカリが繰り返した“目に見えない改善”があった。

華やかな戦術やスター選手よりも、
実はクラブの基盤づくりが勝利を支えていた。

クラブが強くなる循環はこうだ。

体験改善 → 観客増 → 収入増 → 投資 → 戦力アップ → 勝利 → さらに観客増

鹿島は、まさにこの王道の循環を取り戻した。

メルカリの改革は「アプリ運営の延長」ではない。
“ユーザーの喜びは、組織の力を底上げする”という普遍的な原則を、
スタジアムというリアルな空間に持ち込んだのだ。

 


◆ 結論|鹿島の物語は、サッカーではなく“ビジネスの本質”を教えてくれる

未来へ進むクラブ経営(イメージ)

鹿島アントラーズの復活劇が示したのは、
派手な改革よりも地味で確実なUX改善が、
最も強い組織をつくるというシンプルな真実である。

勝つチームを作るのは、派手な補強ではない。
「また行きたい」と思わせる体験を積み重ねること。

これはフットボールでも、ビジネスでも同じだ。

鹿島の優勝は、その原則を丁寧に実践した結果だった。