
「スーパー戦隊シリーズが半世紀の歴史に幕を下ろす」――現実となったこのニュースは、多くの特撮ファンだけでなく、日本の大衆文化全体に重い影を落としました。
1975年の『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まった「5色のヒーロー」は、日本の男の子にとって、そして多くの親にとって、共通の話題であり、友情の証であり、週末の儀式でした。しかし、少子化、視聴習慣の変化、そして制作現場の倫理問題といった現実の壁は、あの「巨大な希望」を維持することを許しませんでした。
この損失は、単なるテレビ番組の終了にとどまりません。私たちが失うのは、「日本の共通言語」そのものです。
1. 失われる「共通言語」の核心
戦隊シリーズが日本文化に残した最大の功績は、その「様式美の記号化」にあります。
-
「5人組・色分け・名乗り」:このフォーマットは、ダウンタウンの『世紀末戦隊ゴレンジャイ』のような国民的コントから、庵野秀明氏らが自主制作した伝説の作品『愛國戰隊大日本』のような過激な政治風刺に至るまで、あらゆるジャンルで即座に意味を伝える「コントの共通言語」として機能してきました。
-
登竜門としての役割:多くの若手俳優を世に送り出し、俳優の「色気と身体性」を鍛える場でもありました。
-
世代間の絆:「親が子に、自分が熱中したヒーローを継承する」という、三世代にわたる文化のサイクルを形成していました。
この共通言語が失われることは、未来のクリエイターが手軽に引用できる「国民的な記号」が一つ減ることを意味します。では、この偉大な遺産を、私たちはこのまま風化させてしまうしかないのでしょうか?
私は、断固として「否」を突きつけます。
2. 「様式美のルーツ」への回帰
スーパー戦隊の最大の魅力である「様式美」を救う道は、そのルーツにあります。
戦隊の「五人が並んで口上を述べる」スタイルは、江戸時代に確立された日本の伝統芸能、歌舞伎の様式にその源流があります。具体的には、『白浪五人男』の「稲瀬川勢揃いの場」の口上と、「見得(みえ)」の演出です。
ならば、私たちはスーパー戦隊を、そのルーツである「歌舞伎座」へ還すべきではないでしょうか。
スーパー歌舞伎II(セカンド)は、『ワンピース』や『鬼滅の刃』といった現代の国民的IPを、伝統の技術で昇華させ、新しい観客層を呼び込むことに成功しています。ここに、「スーパー戦隊」こそを投入すべきです。
私が切に提唱するのは、この企画です。
歌舞伎座超秘伝・白浪五人戦隊ゴレンジャー 企画書

1. 企画概要
タイトル
歌舞伎座超秘伝・白浪五人戦隊ゴレンジャー(かぶきざちょうひでん・しらなみごにんせんたいゴレンジャー)
コンセプト
「戦隊は、歌舞伎に還る。」
『秘密戦隊ゴレンジャー』の様式美(名乗り、五色の連携)を、そのルーツである歌舞伎の『白浪五人男』および「見得」「宙乗り」「早替わり」といったスペクタクル演出によって、舞台芸術として最高峰に昇華させる。「新・スーパー歌舞伎 II」の集大成となる公演を目指す。
2. 物語の構成と役どころ
導入
時は現代。悪の組織「黒十字軍(くろじゅうじぐん)」が、人々の「夢」を奪う巨大な陰謀を企てる。戦いに立ち上がるのは、代々続く歌舞伎役者の家系に生まれながら、それぞれの事情で舞台を離れ、「黒十字軍」に身を隠す五人の若者たち。彼らが、伝説の巻物「秘伝・五色之書」に導かれ、正義の戦士「ゴレンジャー」として覚醒する物語。
五人衆の配役(二代目・白浪五人男の再解釈)
| 役名 | 役割 / 歌舞伎の対応役 | 歌舞伎の技法 | 特徴的な見得のセリフ(七五調) |
| アカレンジャー | リーダー/座長(日本駄右衛門) | 宙乗り、長大な立廻り | 「五色(ごしき)の魂(たましい) 受け継いで、赤き血潮の 大見得(おおみえ) 切らん!」 |
| アオレンジャー | クールな参謀(南郷力丸) | 大立廻り、荒事 | 「青い嵐と 唸りを上げ、知恵と力で 宙(そら) を翔(か)けりゃん!」 |
| キレンジャー | 力持ち/和み役(忠信利平) | 隈取変化、重い武器での立ち回り | 「黄色い太陽 大地照らせ、食って闘う 相撲(すまふ) 芝居よ!」 |
| モモレンジャー | 紅一点/女方(弁天小僧) | 早替わり、長唄との連携 | 「桃色の夢を 咲かせ、恋と涙の 女方(おやま) 舞うらん!」 |
| ミドレンジャー | 若手/風来坊(赤星十三郎) | 俊敏な立廻り、柝(き)との連携 | 「緑の風切り 悪を斬り、静と動の 所作事(しょさごと) 見せうらん!」 |
3. 舞台演出のハイライト
① 勢揃い(名乗り)の場
-
演出の中心は、『白浪五人男 稲瀬川勢揃いの場』の口上と、ゴレンジャー主題歌の融合。
-
5人が花道から登場し、舞台中央でポーズを決める。「アカ!」の声と共に、一瞬で豪華な甲冑(ヒーロースーツ)に変化する「早替わり」。
② 巨大ロボット「バリドリーン」の合体
-
巨大ロボット「バリドリーン」は、舞台上の大仕掛け(大道具)として表現。
-
ロボットの各パーツが奈落やセリから登場し、五人衆がそれぞれ担当するパーツに乗り込む様子を、宙乗りやプロジェクションマッピングで描く。
-
合体完了時、ロボットの顔(兜)の部分が開き、中の役者が力強い「見得」を切る。
③ 必殺技の演出
-
ゴレンジャーハリケーン: 5人が連携して敵に技を仕掛ける際、歌舞伎の「五人立廻り」を披露。最後にボールを蹴り出すアクションを、「投げ物(なげもの)」の技法で客席上空へと飛ばす。
-
巨大戦の刀: 巨大ロボの剣戟を、大太刀を使った荒事の型で表現。舞台照明のケレンとプロジェクションマッピングで大迫力のスペクタクルを展開する。
4. 音楽と衣裳
-
音楽: 長唄、義太夫、囃子方による生演奏を軸に、渡辺宙明氏のオリジナル楽曲を融合。効果音には、歌舞伎の「柝(き)」や「ツケ」を効果的に使用する。
-
衣裳・美術: 5色のヒーローデザインをベースに、歌舞伎の豪華な染物や刺繍を施し、敵の怪人には能や狂言の面、隈取の意匠を取り入れる。
5. 共通言語の「持続」へ(まとめ)

スーパー戦隊シリーズの放送終了は、確かに一つの時代の終わりを告げました。しかし、文化は滅びるのではなく、形を変えて生き残るものです。
特撮ヒーロー文化が持つ「正義の魂」と「様式美」は、歌舞伎という日本の伝統の「強固な形式」と融合することで、単なる一過性のブームを超えた、永続的な舞台芸術として生まれ変わる可能性を秘めています。
そして、ここにこそ、論理的な持続可能性があります。
舞台芸術としてのスーパー戦隊は、高単価なチケットや記念品(手ぬぐい、筋書き)によって、従来の「児童向け玩具」に依存しない、大人の消費に耐えうる新たなビジネスモデルを構築できます。テレビの年間放送という制約から解放され、文化的な価値を収益性の高い形で「持続」させる道が、歌舞伎座にはあるのです。
「歌舞伎座超秘伝・白浪五人戦隊ゴレンジャー」は、共通言語の風化を防ぎ、失われた「集団ヒーローの華」を、最も格調高く、最も熱狂的に復活させるための、唯一無二のプロジェクトです。
私たちはこの夢の実現を諦めてはならない。なぜなら、その五色の魂は、歌舞伎の舞台で、再び輝きを放つ準備ができているのだから。