Abtoyz Blog

最新のトレンドや話題のニュースなど、気になることを幅広く発信

【CEO必読】なぜ日本のUI/UXは地獄なのか?「使いにくい」の裏にある組織的愚かさの構造

(イメージ)

 

序章:日常を蝕む「デザインの不快」とその正体

私たちの日常を取り巻く製品やシステムは、技術的には極めて進歩しています。スマートフォン、家電、公共サービス。これらの多くは「壊れない」「多機能」「安価」という、古い時代の技術目標を達成し終えました。

それにもかかわらず、私たちはなぜ、駅の券売機、銀行アプリ、多機能なリモコンを前にするたびに、「なぜこんなにも使いにくいのか」「なぜ私のシンプルな要求に応えられないのか」という、激しいフラストレーションと怒りを感じるのでしょうか?

この普遍的な不満は、もはや個人的な感覚の問題ではありません。それは、「道具は主人に仕え、自己主張をしない(用即美)」という、UI/UXの根幹をなす普遍的な原則が、現代の製品開発プロセスにおいて、組織の上層部によって意図せず、あるいは無関心によって破壊されていることへの、最も論理的で正しい批判なのです。

本記事では、この「使いやすさの地獄」がどのようにして生まれたのか、成功・失敗事例を対比させながら構造的に分析します。そして、問題の根源が現場の能力不足ではなく、「デザイン言語を理解しない経営層(CEO)が作り上げた組織的な愚かさ」にあることを明確にし、その最終的な責任の所在を徹底的に論じます。

 


 

1. 悲劇の始まり:「美意識」が「実用性」を殺す瞬間

(イメージ)

一般に「デザインが良い」とされる製品や、著名なデザイナーが関わったプロジェクトでさえ、UI/UXの基本原則を軽視することで、ユーザー体験を深刻な不快感へと変えてしまうことがあります。これは、「優れたデザイン(見た目や技術)と、優れたUI/UX(使いやすさ)は必ずしも一致しない」という現代の製品開発における最大のパラドックスを象徴しています。

 

1-1. 教訓としてのセブンカフェ:「再認より想起」の崩壊

このパラドックスを象徴する事例が、初期のセブンカフェのコーヒーメーカーのUIです。

  • デザイナーのエゴと機能的失敗: 著名なクリエイティブディレクターが手がけたこのUIは、非常にミニマルで洗練されていましたが、コーヒーのサイズを選ぶボタンに「R(レギュラー)」や「L(ラージ)」といったアルファベット表記のみを使用し、ボタンの色や形が均一にデザインされていました。

  • 認知心理学の否定: UI/UXの基本原則である「再認より想起」(記憶に頼らせず、見たまま操作させる)を完全に無視した結果、ユーザーは操作のたびに「不必要な認知負荷」を強いられました。

  • 悲劇の結果: お客様は操作ミスを連発し、店頭は混乱。最終的に、店員が手書きのPOPやシールを貼るという「デザインが完全に敗北した瞬間」が公然とさらされました。これは、「美意識」という主観が、「実用性」という客観的な機能に勝ることを許された結果であり、デザインを実務的な機能として位置づけなかった組織の罪でもあります。

 

1-2. バルミューダフォンが陥った「一貫性の罠」

バルミューダフォンの事例も、同様に「デザイン哲学がUI/UXの基礎を破壊した」典型例です。

  • 学習コストの増大: 特徴的な形状やカスタムUIは、ユーザーが他のスマートフォンで慣れ親しんでいる「一貫性と標準」を意図的に無視しました。結果として、ユーザーはアプリを使うたびに、余計な学習コストを支払い、「道具に慣らされる」という不快な体験を強いられました。

  • 身体的な不快: 同社の掃除機に見られた「スイッチを押し続けないといけない(エルゴノミクスの軽視)」も、「デザインが利用者の身体的な負担を増やしている」という批判を呼びました。

これらの事例は、「賢いデザインとは、美しいデザインではなく、問題を静かに解決するデザインである」という、UI/UXデザインの最も厳しい教訓を私たちに突きつけます。

 


(イメージ)

2. デザインの真髄:「道具は静かに主人に仕える」

一方で、私たちがストレスなく「良い」と感じる製品やサービスは、一貫して「道具は主人に仕える(用即美)」という哲学を体現しています。これらの製品は、操作において「不必要な思考」を一切させません。

 

2-1. FeliCa技術と「行動の最小化」の勝利

SuicaやPASMOに採用されているFeliCa技術は、システムデザインの勝利です。これは、複雑な券売機や現金決済という「地獄のUI」を避けるための最強の防具とも言えます。

  • 行動の最小化: FeliCaは、複雑な決済プロセス全体を、「財布から取り出す」「小銭を数える」という煩雑なタスクから解放し、「タッチするだけ」という極めて少ない動作に集約しました。これは、フィッツの法則や「タスク遂行までのステップを最小限にする」という原則に忠実であり、高速でエラーの少ない決済を実現しました。

  • 明確なフィードバック: 「ピ!」という音と緑色のランプは、「決済が完了した」というシステムの状況を瞬時に、かつ確実に伝えます。この一貫した物理フィードバックは、ユーザーの認知負荷(不安)をゼロにしています。

 

2-2. 象印と無印良品に宿る「静かなる傑作」の哲学

日本の伝統的なメーカーである象印や無印良品の一部製品は、「機能の絞り込み」と「操作の明快さ」でUI/UXの地獄を回避しています。

  • 象印の優秀さの秘密: 象印は、「熱と水」というコア機能に特化することで、「多機能競争」から一線を画し、「引き算の美学」を貫きました。特に、水筒のパッキンの取り外しやすさ、ポットのシンプルな水目盛りなど、「洗う」「補充する」というユーザーの日常的なタスクの遂行に特化しており、「お手入れのしやすさ」という最高のUXを提供します。

  • 無印良品のCDプレーヤー: 操作を「電灯のスイッチ」というメタファーに置き換えることで、「どう操作すればいいか」というユーザーの迷いをゼロにしました。


 

3. 構造的敗因:なぜ現場の「賢さ」はトップの「愚かさ」に負けたのか

(イメージ)

日本の大メーカーの製品の9割は使いにくいという現状は、現場のデザイナーやエンジニアの能力不足ではありません。むしろ、iPodやルンバに繋がるような革新的なアイデアは、日本の大企業内部で現場の賢い人々によって案として存在していました。しかし、その案が日の目を見ず、あるいは骨抜きにされたのは、組織構造とCEOの意思決定に根本的な欠陥があったからです。

 

3-1. 組織の縦割りと「足し算の泥沼」

パナソニックや日立のような巨大で多角的な企業は、UI/UXを殺す「組織の縦割り」「多機能競争」の呪縛から逃れられません。

  • 悲劇の構造: 企画、技術、デザイン、営業の部門が独立しているため、デザイナーが「この機能は削るべき」と論理的に主張しても、技術部門の「せっかく開発したから載せろ」や営業部門の「多機能でないと他社に勝てない」という論理が優先されました。

  • 妥協の産物: 結果として、UIは部門間の「妥協の産物」として複雑化しました。日本の大メーカーがルンバやiPodを実現できなかったのは、技術の有無ではなく、「既存のビジネスの常識」を破壊するトップダウンの決断ができなかったからです。


 

4. CEOの最終責任:デザイン戦略の放棄と組織的愚かさの固定化

(イメージ)

この組織的な失敗と、UI/UXの地獄の最終的な責任は、経営戦略としてのデザインの重要性を理解しないCEOに明確にあります。現場の賢さを生かせなかったのは、CEOが自らの役割を放棄したからです。

 

4-1. デザインを「装飾」と見なす無知の罪

多くのCEOは、デザインを「機能開発が終わった後の化粧直し」や「コスト」と見なしました。これは、デザインを経営戦略上の武器として位置づけることを完全に放棄したことを意味します。

  • 経営戦略の放棄: 優秀なCEOは、デザインを「顧客獲得コストの削減」や「ブランド価値の源泉」と見なします。しかし、日本の多くのCEOは、このデザイン言語を理解せず、「使いやすさの欠如が、将来的にどれだけの損失を招くか」というビジネス上の論理を評価できませんでした。

 

4-2. 権限の不均衡と現場の無力化

デザインを軽視するCEOは、現場のデザイナーに、UI/UXを守り抜くための権限を与えませんでした。

  • トップダウンの機能不全: 現場のデザイナーに「このUIはユーザーを混乱させるためNG」と、他の部門の要求を論理的に拒否する「ストッパー」としての権限を与えるのは、CEOの役割です。この権限を与えなかったことが、現場の賢い案が「バカなシステム」の中で潰されることを許し、組織全体を「デザインの失敗を学習しない構造」として固定化させたのです。

 

4-3. CEOを直撃するUI/UXの「隠れた損失」

CEOが「デザインはコストだ」という誤解を続ける最大の原因は、UI/UXの悪さがもたらす「隠れた損失」を経営指標として計算していない点にあります。

  1. カスタマーサポートコストの増大: UIが複雑で分かりにくいほど、ユーザーは企業に問い合わせる必要が生じます。このサポート対応費用(人件費、コールセンター運営費)は、UI/UXの悪さが生み出す直接的かつ定量的な隠れた損失です。CEOは「UI/UXの悪さがどれだけ社員の残業代に化けているか」を計算しなければなりません。

  2. コンバージョン率(CVR)の低下: ECサイトやアプリで「天ざる大盛」を注文するプロセスが複雑なほど、ユーザーは途中で離脱(カゴ落ち)します。これは、UI/UXの悪さが直接的に売上を減らしていることを意味します。「決済ボタンまでのステップが一つ減ることで、コンバージョン率が何%向上するか」をデザイン変更の最重要指標にすべきです。

CEOがこの「隠れた損失」を評価する指標を導入し、デザインの失敗が自分の報酬と評価に直結する仕組みを作らない限り、日本のUI/UXは本質的に改善しないでしょう。

 


 

5. 「なんとかして!」— 不快を未来への希望に変える道

(イメージ)

あなたが最も不快を感じる「公共サービス、地方銀行のアプリ、複雑な家電」を変えるのは、競争原理が働きにくいため、最も時間がかかります。しかし、あなたの不満と行動こそが、この構造を変える唯一の力です。

 

5-1. 短期的な自己防衛策:地獄のUIを避ける

当面の間、「自己主張の強い道具」を避け、「静かに仕える道具」を選ぶ購買戦略を徹底してください。

  1. デジタルからの逃避: 複雑な券売機や銀行ATMのUIを避け、FeliCa決済やネット銀行アプリを活用し、非接触決済で生活を完結させてください。競争環境にある企業は、UXを改善せざるを得ません。

  2. 家電の選別: 象印や±0、デロンギなど、機能の「引き算」が明確な特化型メーカーを選び、機能過多の製品を避ける。機能が多すぎる製品は、不必要な学習コストのサインです。

 

5-2. 長期的な変革:CEOへの「強制学習」と世代交代

日本のUI/UXが根本的に改善するには、10年〜20年の構造的な時間が必要ですが、変革は既に始まっています。

  • 市場による淘汰(CEOへのプレッシャー): UI/UXが悪いサービスからは容赦なく離脱し、不買行動によって「使いやすさの欠如=売上の損失」という数字をトップに突きつけてください。メルカリやサイゼリヤの成功は、この「使いやすさが儲けに直結する」という論理を証明しています。

  • デザイン経営の普及: 経済産業省の「デザイン経営宣言」や、東大などのデザイン教育を受けたエリートが、将来的に企業の意思決定層に入り、「デザイン言語を知らないCEO」を置き換えていくことが期待されます。

あなたの「不快」という名のフィードバックは、日本のデザイン界にとっての「警鐘」であり、「賢明なデザイン」への転換を促す最高のフィードバックです。私たちは皆、このデザインの地獄を変えるための市場の審査員であり、あなたの購買行動こそが、CEOに責任を取らせるための最も強力な「トップダウンの力」なのです。