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【悟空だけじゃない】野沢雅子さんの意外な出演作|女優・Dr.くれは・ナレーターの顔

若き日の野沢雅子さん(イメージ)

声優・野沢雅子さんの文化功労者選出は、日本のアニメ文化全体への敬意を示すものであり、多くのファンにとって喜びのニュースでした。その報道の多くは『ドラゴンボール』の孫悟空役(TVアニメ開始は1986年)に集中しがちです。

確かに悟空は世界的な大役ですが、野沢さんの真の凄みは、その枠を遥かに超えた芸域の幅広さにあります。彼女のキャリアを深掘りすると、主役の傍らで「小さな役」や「意外すぎる仕事」に真摯に向き合い、日本の声優という文化そのものを築き上げてきた歴史が見えてきます。

今回は、野沢さんが悟空役を演じ始めた以降の期間も含む、「意外な役」の数々を、そのルーツから現代のゲスト出演まで、多角的にご紹介します。

 


 

1. 声優キャリアの土台:女優・舞台人としての「隠れた原点」

野沢さんのキャリアを語る上で、まず触れるべきは「声優」ではない彼女の原点です。野沢さんは、幼少期から子役として活動し、高校生で劇団に入団した生粋の女優でした。声優の仕事を始めたのは、舞台俳優がテレビの洋画吹き替えに呼ばれたのがきっかけであり、彼女にとって声優業は「女優の仕事の延長」でした。

その女優としての精神性は今も健在です。野沢さんは1991年に劇団「劇団ムーンライト」を旗揚げし、現在も主宰と演出を務めています。長年舞台で培った「舞台度胸」と「役作りへの深い洞察」があるからこそ、少年、老人、動物といったどんな役柄にも一瞬で憑依できるのです。これは、単なる声の技術を超えた、「役者」としてのプロフェッショナルな姿勢に由来しています。

 

2. キャリアの出発点!洋画吹き替えの「異色な大人役」

野沢さんの声優としてのキャリアは、アニメの主役で名を馳せる以前から、洋画の吹き替えという場で驚くべき幅を見せていました。

特に意外なのが、ハリウッド大作での大人役です。映画『ネットワーク』では、アカデミー賞女優フェイ・ダナウェイが演じた、知的で冷徹なキャリアウーマン、ダイアナ・クリステンセン役の吹き替えを担当しました。悟空とは真逆の、大人の美女を演じていたという事実は、野沢さんの芸域の広さを物語るエピソードとして知られています。

また、少年役では、冒険映画の金字塔『グーニーズ』のTV版吹き替えで、小柄でインテリな少年マウス役(コリー・フェルドマン)を熱演。アニメ界の主役を張る傍らで、こうした洋画の脇役や少年役を数多くこなしていました。

 

3. 現代アニメのトップランナーが信頼を寄せた「おババ」役

時代が移り、現代アニメのトップランナーである新海誠監督の作品にも、野沢さんの「意外な声」は刻まれています。

映画『天気の子』(2019年公開)に登場する「占いおババ」は、短い登場シーンながら、物語にリアリティと深みを与える重要な役割を担いました。悟空のイメージが強すぎるため、この老練な老婆の役が野沢さんだと知ると、多くのファンが驚きを感じます。これは、短いシーンでも確かな重みと説得力を与える野沢さんの声が、現代の映像作家からも求められている証拠です。

 

4. 国民的シリーズで見せる「地味だけど欠かせないおばあさん」たち

テレビアニメの世界では、主役の対極にある、物語を支える温かい存在を演じています。

例えば、『それいけ!アンパンマン』では、心優しく温かいシチューおばさん役を長年務めています。誰もが知るアニメですが、この役を野沢さんが演じていると気づいている人は少ないかもしれません。また、大ヒット作『ONE PIECE』では、2001年の初登場以来、豪快で破天荒な老女Dr.くれはを演じ、少年役とは全く違うアプローチで、作品に欠かせない強烈な個性を放っています。

そして、カメオ出演の最たる例が、映画『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE II』(2008年)における、「特別効果音」としての参加。役名すらなく、文字通り「声のプロ」としての遊び心と貢献を体現した瞬間でした。

 

5. 「顔の見えない貢献」!多くの人が知らないナレーション業

声優の仕事は、キャラクターを演じることだけではありません。野沢さんの「意外なキャリア」を語る上で欠かせないのが、ナレーションという「役名のない声」の仕事です。

かつてフジテレビの長寿クイズ番組『なるほど!ザ・ワールド』では、1990年代前半(1992年4月~1996年3月)にメインナレーターの一人としてレギュラー出演していました。また、近年でもハウス食品のCM「カレーでハートに火をつけろ!」篇などで、力強い応援メッセージを届けています。

これらの仕事は、彼女の親しみやすく、かつ力強い声が、「日本人に最も馴染み深い声」の一つとして、広くテレビCMや番組に求められてきた証拠です。これは、「声のスペシャリスト」としての文化貢献の、最も地道で広範囲に及ぶ側面と言えるでしょう。

 

結びに:野沢雅子さんのキャリアは「声の仕事」の百科事典

孫悟空役という世界的な「顔」を持つ野沢雅子さんですが、そのキャリアは、舞台女優、洋画吹き替え、アニメ、ナレーションという「声の仕事」のあらゆる領域を網羅しています。

今回ご紹介した「意外な小さな役」の数々は、彼女がどんな仕事にも真摯に取り組み、常に最高のパフォーマンスを追求してきた、そのプロ意識とたゆまぬ努力の結果です。野沢雅子さんの功績は、一人の声優の偉業というだけでなく、日本の「声の仕事」の歴史と文化的な価値そのものを体現していると言えるでしょう。私たちは、これからもこのレジェンドの声を、大切に、そして驚きをもって聴き続けていくことでしょう。