
芥川賞受賞、それは作家にとって最高の栄誉であり、輝かしい未来を約束するはずの瞬間です。しかし、受賞後も経済的な苦境に直面する作家がいるという現実を聞けば、「夢がない」と感じる人もいるかもしれません。なぜ、これほどまでに「権威」と「経済的成功」は乖離してしまったのでしょうか?
この記事では、現代社会における「権威」のあり方と、その中で私たちがどう「サバイバル」していくべきかを探ります。
「権威」の多様化と、その影に潜む「陳腐化」の危機
かつて「権威」といえば、ノーベル賞や芥川賞のように、長い歴史と厳格な審査基準を持つ、ごく限られた存在でした。その希少性こそが、「承認」と「栄誉」の価値を最大限に高めていたのです。芥川賞が時に「該当作なし」という判断を下すのは、まさにこの権威を安易に損なわないための厳格な姿勢の表れです。これによって、賞の「引き締まった感」が保たれているとも言えるでしょう。
しかし、現代では「権威」と名のつくものが溢れています。「今年の漢字」のような大衆参加型のイベントから、「サラリーマン川柳」や「おーいお茶新俳句大賞」といった、より親しみやすい「文化イベント」も増えました。また、アニメツーリズムにおける富野由悠季氏のような、特定の分野の「人物」が持つ影響力やブランド力もまた「権威」の一種として機能しています。
一方で、ビジネスやプロモーション目的で安易に創設される「見せかけの権威」も増え、「とりあえず賞を出せばいい」という感覚が散見されるようになりました。残念ながら、「レコード大賞」の事例のように、金銭の授受が噂されることで賞の信頼性が失墜してしまうような状況も存在します。
「権威」が多すぎると、その一つ一つの価値は薄れ、本当に信頼に足るものを見極めるのが難しくなります。代理店が特定のデザイナーを「スター」として集中的にプロモーションすることで、彼らの影響力は飛躍的に高まりますが、これも「権威」がマーケティングによって作られうる一例です。
「権威」だけでは生きられない現実──作家のサバイバル戦略
特に顕著なのが、文学の世界です。芥川賞を受賞すれば「なんとかなる」と期待を抱く新人作家は多いでしょう。しかし、現実には、印税収入だけで生計を立てられる作家はごく一握りです。文化庁が実施した調査などでも、プロの作家・文筆業の平均年収が他の職種と比べて低い傾向にあることが示されており、「権威」と「経済的な成功」は別物という厳しい現実があります。
受賞後も、経済的な不安から解放されず、大学の非常勤講師として教壇に立つなど、他の仕事を兼ねながら執筆活動を続ける作家も少なくありません。しかし、常勤の講師ポストは非常に少なく、非常勤では授業のコマ数に応じた給与で、十分な生活費を得ることは困難であり、「全く生活できない」状況に陥る人もいます。柳美里さんのような著名な芥川賞受賞者でさえ、経済的な苦難を経験されたことは、この現実を象徴しています。
これは、日本の文学・芸術分野に顕著な傾向ですが、才能や創造性に対する公正な評価と、それに見合う経済的基盤の保障が乖離しているという問題は、世界中の多くの国で見られる共通の課題でもあります。
現代の「賢い」サバイバル術:作家たちの多様な「正解」
このような厳しい現実の中で、作家たちは「書くこと」を継続するために、それぞれが独自の「サバイバル戦略」を模索し、実践しています。
たとえば、羽田圭介さんは、芥川賞受賞後、テレビ番組やYouTubeなど、メディアへ積極的に露出することで、小説の印税以外の収入源を確立し、幅広い層に自身の存在をアピールしました。これは、彼の個性と時代の流れを読み解き、作家としての活動範囲を広げる「賢い」戦略と言えるでしょう。彼は、作家という枠にとらわれず、自身の多才さを生かして多角的に活動することで、経済的な基盤を築き、結果的に創作の継続を可能にしました。
また、福井晴敏さんのように、自身の強みである緻密な世界観構築力を活かし、小説だけでなくアニメや映画の脚本・構成に深く関わることで、巨大なIP(知的財産)と連携し、多角的な収益と影響力を獲得する道を選ぶ作家もいます。
彼らのやり方は、過去の「作家像」にとらわれず、自身の才能と時代のニーズを掛け合わせることで、「作家としてサバイバルできるなら、あとは何でもいい」 という覚悟のもと、新たな「正解」を見出した例と言えるでしょう。
私たちに問われる「見極める力」
現代社会では、多様な「権威」が存在し、個人の「サバイバル」の形も多岐にわたります。しかし、その中には、本質的な価値を持つ「権威」と、見せかけだけの「権威」が混在しています。
私たちは、情報に流されず、何が本当に価値あるものなのか、誰が真の「権威」なのかを自らの目で判断する「見極める力」が、これまで以上に求められています。そして、作家たちが示す多様な「サバイバル術」は、私たち自身の「夢」や「キャリア」を考える上で、画一的な「成功像」にとらわれず、柔軟に道を模索する重要性を教えてくれるはずです。
あなたが追い求める「権威」とは、そして「サバイバル」とは、一体どのような形をしているでしょうか?