タレントの太田光さんが、数年前から睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療としてCPAP(シーパップ)療法を実践されていると告白。「CPAPやってると、寝返りが打てなくて、使い始めてから朝起きると全身が痛くて悩んでるの」と明かされました。
さらに、「CPAP使用しなければ『体は痛くならないんだけど、もう自発呼吸ができなくなってるの。補助がないと寝てるとき呼吸できないの』と深刻な状況を吐露」されたとのこと。
「CPAPって何?」「全身が痛くなるの?」「自発呼吸ができなくなるってどういうこと?」と疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、太田さんの話題をきっかけに、CPAP治療と睡眠時無呼吸症候群について、分かりやすく解説していきます!
CPAP(シーパップ)ってどんなもの?
まず、CPAPとは「Continuous Positive Airway Pressure」の略で、「持続陽圧呼吸療法」という医療機器を使った治療法のことです。主に睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療に使われます。
どんな仕組み? 寝るときに、鼻、または鼻と口を覆うマスクを装着します。CPAP装置からこのマスクを通じて、一定の圧力をかけた空気が気道に送り込まれます。この空気の圧力が、寝ている間に狭くなったり塞がったりする喉の奥(気道)を広げた状態に保ってくれるんです。
これにより、呼吸が止まる「無呼吸」や呼吸が浅くなる「低呼吸」が解消され、ぐっすり眠れるようになります。いびきもほとんど解消されることが期待できます。
CPAPって商品名じゃないの? よく誤解されますが、CPAPは特定の商品の名前ではなく、治療法そのものの名称です。CPAP装置を製造・販売しているメーカーはいくつかあり、世界的にはResMed(レスメド)やPhilips Respironics(フィリップス・レスピロニクス)などが有名です。最近では、日本の村田製作所も「ムラタ CPAP MX」という小型で静音性の高いCPAP装置を開発・販売しています。
なぜ「全身が痛い」? CPAPと寝返りの関係
太田さんが「全身が痛い」と話された原因として、ご本人が語られているように「寝返りが打てないから」という点が非常に考えられます。
CPAPを使う際は、マスクとホースを装着して寝るため、普段通りに自由に寝返りを打つのが難しいと感じる方が少なくありません。私たちは寝ている間に無意識に何度も寝返りを打つことで、同じ場所に圧力がかかり続けるのを防ぎ、血行を良くし、体の負担を分散させています。寝返りが十分に打てないと、肩や腰など特定の部分に負担が集中し、結果として全身のだるさや痛みにつながることがあるのです。
もしCPAP使用中に痛みを感じる場合は、マスクの装着方法を見直したり、医師や専門業者に相談して、寝具の工夫(CPAPユーザー向けの枕など)についてアドバイスをもらうと良いでしょう。
また、太田さんが「もう自発呼吸ができなくなってるの。補助がないと寝てるとき呼吸できないの」と話された点ですが、これはCPAP装置が文字通り「呼吸を補助」している状態を指していると考えられます。SASの場合、寝ている間に気道が塞がることで、自力で十分な呼吸を確保できなくなっている状態です。CPAPはその補助をして、本来の睡眠中の呼吸を取り戻す手助けをしている、ということですね。CPAPを使うことで自発呼吸の機能が失われるわけではありませんのでご安心ください。
そもそも「睡眠時無呼吸症候群」って何?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、寝ている間に呼吸が何度も止まったり、非常に浅くなったりする病気です。10秒以上の無呼吸や低呼吸が、1時間に5回以上繰り返されると診断されます。
主な症状は?
- 夜間: 大きないびき(家族から指摘されることが多い)、睡眠中の呼吸停止、夜間の覚醒、寝汗、熟睡感がない、口の渇きなど。
- 日中: 強い眠気(会議中や運転中に眠ってしまうなど)、起床時の頭痛、だるさ、集中力・記憶力の低下など。
無呼吸で死ぬの? 無呼吸そのものが直接的な死因となることは稀ですが、放置すると命に関わる深刻な合併症のリスクが高まります。
呼吸が止まるたびに体は酸欠状態になり、心臓は酸素を補おうと激しく働き、血圧が急上昇します。これが毎晩繰り返されることで、高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などのリスクが大幅に高まります。これらは、突然死や重篤な病気の原因となることも少なくありません。日中の強い眠気は、交通事故や労働災害にもつながりかねません。
CPAP治療などの適切な治療を受けることで、これらの合併症のリスクを大幅に減らし、健康寿命を延ばすことができます。
誰にでも可能性がある! 太田光さんの年齢も関係?
「睡眠時無呼吸症候群は肥満の中年男性の病気」というイメージがあるかもしれません。太田光さんは肥満ではないとのことですが、この病気は誰にでも発症する可能性があります。
肥満でなくてもSASになる主な理由
- 骨格的特徴: 日本人を含むアジア人は、顎が小さい、下顎が後退しているなど、もともと気道が狭い骨格の人が多いです。
- 扁桃腺や舌の大きさ: 扁桃肥大や舌が大きい場合も、気道を塞ぐ原因になります。
- 鼻の病気: アレルギー性鼻炎や鼻中隔湾曲症などで鼻が詰まっていると、口呼吸になりやすく、舌が落ち込みやすくなります。
- アルコールや特定の薬剤: 寝る前の飲酒や一部の睡眠薬は、喉の筋肉を弛緩させ、気道を狭める可能性があります。
そして、太田光さんが60歳であると考えると、もう一つの大きな要因は「加齢」です。
加齢とSASの関係 年齢を重ねると、性別や体型に関わらず、喉や舌の周りの筋肉が緩みやすくなります。この筋肉の緩みにより、睡眠中に気道を支える力が弱まり、狭窄や閉塞が起こりやすくなります。また、加齢とともに高血圧や心不全といった基礎疾患が増えることも、SASのリスクを高めます。
太田光さんが肥満でなくてもSASを発症している背景には、こうした加齢による身体の変化が大きく関わっている可能性が高いと考えられます。日本国内でもCPAPを使用している方は推定で45万人~64万人とされており、この人数を見ると肥満だけでは説明しきれません。加齢に伴う発症は、非常に一般的なことなのです。
CPAPはどこで手に入れる? 診断と他の治療法
CPAPは、基本的には医療機関で医師の診断を受け、レンタル(貸与)されるのが一般的です。健康保険が適用されるため、毎月の診療費と合わせて約4,000円〜5,000円程度の自己負担で利用できます。
診断プロセスは? SASの診断には、まず自宅でできる簡易検査や、病院に一泊して行うより詳しい精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG検査)が不可欠です。これらの検査で、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を示すAHI(無呼吸低呼吸指数)という数値が算出され、それに基づいて重症度が判断されます。
CPAP以外の治療選択肢は? CPAPが最も効果的な治療法ですが、SASの重症度や原因によっては、他の治療法も検討されます。
- マウスピース(口腔内装置): 軽症の方に適応されることがあります。下顎を前方に固定し、舌の沈み込みを防ぐことで気道を広げます。
- 外科的治療: 扁桃肥大や鼻中隔湾曲症など、明らかな原因がある場合に手術が検討されます。根本的な解決につながる可能性もあります。
- 生活習慣の改善: 肥満がある場合は減量が非常に有効です。また、就寝前のアルコールや睡眠薬の制限、横向きに寝るなどの工夫も重要です。
CPAPの外観は? パートナーの理解も重要!
CPAP装置は、最近の機種は小型でデザイン性も向上しており、ベッドサイドに置いてもあまり場所を取りません。騒音もかなり抑えられていますが、ゼロではないため、音に敏感な方は気になることも。マスクも鼻だけを覆うタイプから、鼻と口を覆うフルフェイスタイプまで様々です。
そして、CPAP治療を続ける上で、パートナーの理解と協力は非常に重要です。 マスクを装着する姿や装置の音、慣れないうちは寝返りのしにくさなど、パートナーにとっても最初は戸惑いがあるかもしれません。しかし、CPAPが単なるいびき対策ではなく、命に関わる病気のリスクを減らし、患者さん自身の健康を守るための大切な治療であることを伝え、理解を求めることが大切ですし、いびきが改善されれば、パートナー自身の睡眠の質も向上するというメリットも共有できます。
CPAP治療は、少し特殊な見た目かもしれませんが、多くの患者さんの健康と生活の質を大きく向上させる、非常に有効な治療法です。日中の眠気や倦怠感が解消され、仕事や家事の効率が上がったり、趣味を楽しむ余裕ができたりと、生活の質の向上を実感する方は少なくありません。
もしご自身やご家族にいびきや日中の眠気など、睡眠時無呼吸症候群の症状が疑われる場合は、ぜひ一度呼吸器内科、耳鼻咽喉科、または睡眠専門クリニックを受診して相談してみてください。あなたの健康と未来のために、一歩踏み出すことが大切です。