私たちの心を揺さぶるあのメロディ、情景を鮮やかに彩るあのサウンド。一体、作曲家たちはどのようにして、これらの「音の魔法」を生み出しているのでしょうか? 多くの人々を魅了する楽曲の裏側には、作曲家たちの深い洞察と、音楽への飽くなき探求心が存在します。
今回は、ポップス、クラシック、ゲーム音楽、演歌など、ジャンルを超えた偉大な作曲家たちの言葉を紐解きながら、彼らが語る「作曲」という行為の真髄に迫ります。
「閃き」という名の、最初の贈り物
作曲家たちの言葉で頻繁に登場するのが、メロディが「どこからともなくやってくる」という表現です。ザ・ビートルズのポール・マッカートニーは、かの名曲「Yesterday」のメロディが夢の中で生まれたというエピソードを交え、「メロディは、どこからともなくやってくるものだ。まるで誰かが上から降らせてくれるようにね」と語っています。スタジオジブリ作品で知られる久石譲もまた、「メロディは、どこからともなく降ってくる。それをいかに受け止めるか、そして、いかに形にするかが作曲家の仕事だ」と表現し、そのインスピレーションの神秘性を伝えています。
これは、作曲が単なる計算や理論だけではない、直感やひらめきといった、ある種の「瞬間的な贈り物」に支えられていることを示しています。ボブ・ディランが「曲は、どこかからやってくるものだ。まるで、電波を受信するラジオのようにね。僕の仕事は、それをキャッチして形にすることだ」と語ったように、作曲家たちはその閃きを逃さず「受信」する感性を持っているのです。
スティーヴィー・ワンダーが「僕は、曲を作るとき、まずビートを感じる。そして、そのビートが僕をどこへ連れて行ってくれるのかに耳を傾けるんだ」と語るように、彼らは音の最初の断片から、曲全体の方向性を感じ取る能力に長けているのです。
「探求」という名の、終わりなき旅
しかし、「閃き」だけでは名曲は生まれません。その一瞬の輝きを、聴き手の心に深く刻み込む作品へと昇華させるためには、地道で継続的な「探求」のプロセスが不可欠です。
1. 感情への深い洞察と表現
音楽は、人の感情に直接訴えかける力を持っています。演歌の巨匠、遠藤実は「メロディは、涙の数だけある。人の心の痛みや喜びを、音に込めるのが演歌だ」と語り、人間の機微を音で表現することの重要性を説きました。ジョン・レノンも「僕はただ、自分が感じたことを正直に書いているだけだ。それがたまたま歌になっただけさ」と述べ、自己の内面から湧き出る感情を音楽に昇華させる姿勢を示しています。
プリンスは「音楽は、感情そのものだ。だから、僕は自分が感じたことを、音符に乗せて表現するんだ」と語り、感情と音の結びつきを強調しました。ゲーム音楽の植松伸夫が「ゲーム音楽は、映像やストーリーと一体となって、プレイヤーの感情を揺さぶるもの。単なるBGMではない、もう一人の登場人物だと考えている」と語るように、作曲家は聴き手の感情を深く理解し、それを音で増幅させることを探求し続けているのです。
2. 普遍性と時代性の追求
多くの作曲家は、一過性の流行に終わらない「普遍的なメロディ」を追求しています。日本の歌謡界を牽引した筒美京平は、「売れる曲というのは、誰もが口ずさめるメロディを持っているものだ」としつつ、「流行に流されるのではなく、本当に良いメロディは時代を超えて愛される」と語りました。古賀政男の「歌は、聴く人の心に寄り添い、人生の道しるべとなるべきだ」という言葉もまた、普遍的な価値を持つ歌の力を信じる姿勢が表れています。
その一方で、時代を切り取る感覚も重要です。小室哲哉は「僕は、時代を切り取るような音楽を作りたい。その時の空気感や感情を、音で表現したいんだ」と述べ、現代の空気感を音楽に落とし込むことへの意識を示しています。アニソン作曲家の田中公平が「アニメのOP(オープニング)やED(エンディング)は、その作品の顔だ。たった数分の中に、作品の全てを凝縮し、視聴者の心を掴まなければならない」と語るように、特定の作品や時代のニーズに深く応えることも、重要な探求テーマとなっています。
3. 基礎と応用、そして逸脱
「マツケンサンバII」で知られる宮川彬良は、「一応クラシックの基礎から学んで、バッハは何を学んだのかを知りたくて探って、じゃあバッハの先生は誰だという本質的なところに僕は興味があって、掘っていったというのがあるから、ああいう娯楽作であっても、ちょっとそんな考え方がにじみ出てる部分がある」と語り、クラシックの基礎が自身の娯楽作にもにじみ出ていると示唆しています。
クインシー・ジョーンズの「ルールを学ぶことは大切だ。しかし、もっと大切なのは、そのルールをいつ破るべきかを知ることだ」という言葉も同様に、音楽理論という土台を深く理解した上で、それをどう応用し、時には意図的に逸脱するかという探求が、新たな表現を生み出す鍵であることを教えてくれます。すぎやまこういちも「クラシック音楽の基礎は、あらゆるジャンルの音楽に応用できる。僕のルーツはそこにある」と述べ、その普遍性を強調しています。
4. 緻密な構築と終わりなき試行錯誤
閃きはあくまで出発点。ポール・マッカートニーは「曲を作るというのは、パズルを解くようなものだ。バラバラのピースを組み合わせて、最終的に一つの美しい絵を完成させるんだ」と語り、楽曲の緻密な構築作業に言及しています。坂本龍一もまた、「完成した、と思ってはいけない。常に、もっと良くなる方法があるはずだ」と、終わりなき試行錯誤の重要性を説いています。
ビョークが「作曲は、感情を解剖するようなもの。それを理解し、新しい形で再構築していくプロセスなの」と語るように、閃きを具体的な形にし、深みを加えていくには、論理的かつ創造的な思考が求められます。この地道で職人的な「コツコツ」とした作業こそが、閃きを真の芸術作品へと昇華させるのです。
作曲家たちの「創造の秘密」
偉大な作曲家たちの言葉から浮かび上がるのは、音楽創作が、神秘的な「閃き」という種を、深い「探求」という肥沃な土壌で育てるプロセスであるということです。彼らは、感情の機微、普遍的な美、時代の空気、そして音楽理論の奥深さを探求し続け、聴き手の心に響く「音の魔法」を生み出しています。
次にあなたが好きな曲を聴くとき、そのメロディがどこからやってきて、どのように磨き上げられたのか、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。そこにはきっと、作曲家の情熱と探求の物語が隠されているはずです。