Abtoyz Blog

最新のトレンドや話題のニュースなど、気になることを幅広く発信

お笑い界の光と影を徹底解析:麒麟・田村の年収格差から吉本興業の複雑な内情、上場廃止の深層、ダウンタウンが変えた経営まで

人気芸人は、バラエティ番組で引っ張りだこ(イメージ)

お笑いコンビ「麒麟」の田村裕さんが、相方・川島明さんとの間に「年収60倍」もの格差があったことを告白し、大きな話題を呼びました。一見すると信じがたいこの話は、お笑い界の厳しさや、巨大芸能事務所・吉本興業の複雑な内情を浮き彫りにします。今回は、この年収格差の真実から、お笑い芸人の収入事情、そして吉本興業の知られざる歴史と経営戦略まで、深掘りしていきます。

 

年収60倍は本当だった!お笑い界のシビアな現実

「麒麟・田村裕、相方との“格差”は「年収60倍」」――この衝撃的なニュースは、多くの人の目を引きました。結論から言えば、この報道は事実に基づいています。なぜこのような極端な格差が生まれるのでしょうか?

お笑いコンビの収入は、一般的にコンビ間で分配されるわけではありません。個々の芸人が獲得した仕事に応じて、それぞれがギャラを受け取るシステムが主流です。麒麟の場合、川島明さんがテレビのMCやバラエティ番組で引っ張りだこである一方、田村さんはかつての「ホームレス中学生」ブーム以降、メディア露出が減少していました。この仕事量の差が、そのまま年収の圧倒的な格差に直結したのです。

これは、お笑い界では珍しいことではありません。一部のトップ芸人に仕事が集中し、人気と収入が二極化する現象は常に存在します。かつては田村さんの著書が大ヒットし、彼の方が高収入だった時期もあったことを考えると、人気商売であるお笑い界の浮き沈みの激しさを痛感させられます。

 


トミーズ雅とサバンナ八木、なぜ芸人の年収を言い当てられるのか?

テレビ番組などで、トミーズ雅さんやサバンナ・八木真澄さんが人気芸人の年収をズバリ予想し、その信憑性の高さが話題になることがあります。彼らは一体どうやって、一般には非公開の情報を言い当てられるのでしょうか?

トミーズ雅さんの場合、その強みは「長年の経験と業界内での圧倒的な人脈」にあります。雅さん自身、お笑い界のトップランナーとして数々のCMやレギュラー番組を経験し、高額なギャラを手にしてきました。そのため、各番組やCMのギャラ相場を肌感覚で理解しています。また、吉本興業という巨大事務所内での情報交換や、他事務所の芸人、メディア関係者との交流を通じて、おおよそのギャラ事情を把握しているのでしょう。彼の「マサ算」と呼ばれる予想は、データだけでは測れない、ベテラン芸人ならではの「肌感覚」と「嗅覚」に裏打ちされています。

一方、サバンナ・八木真澄さんは、ファイナンシャルプランナー1級の資格を持つという異色の経歴が強みです。FPの専門知識に基づき、テレビ出演料、CM契約料、イベント出演料、YouTubeの広告収入など、様々な収入源を論理的に積み上げて計算していると考えられます。芸人としての実体験と、FPとしての客観的な分析能力を兼ね備えているため、より具体的で説得力のある年収推測が可能なのです。

しかし、彼らの予想もあくまで「推測」であり、正確な収入を完全に把握しているわけではありません。芸人の年収は、所属事務所との契約形態(歩合制が一般的)や、個々の仕事内容、世間の人気度によって大きく変動するため、外部の人間が正確な数字を知ることは極めて困難です。それでも、彼らの予想が「かなり信憑性が高い」と言われるのは、彼らが業界内部の人間であり、その知識と経験が非常に深いためです。

 


吉本興業の「再分配」システム:若手が育つ仕組み

吉本興業は、全国各地に常設劇場がある(イメージ)

芸人のギャラは、所属事務所によって「かなりの割合」が徴収されると言われています。特に吉本興業のような大手事務所では、この「事務所の取り分」が非常に大きいとされます。一見すると不公平に見えるこの仕組みは、実は吉本興業独自の「再分配」機能として機能しています。

売れている芸人が稼いだ多額のギャラの一部は、まだテレビに出る機会の少ない無名や若手の芸人への投資に充てられます。吉本興業は、養成所「NSC」の運営、全国各地の常設劇場(よしもと〇〇劇場)の維持、若手芸人向けのレッスン費用、マネージャーの人件費など、「売れる前の芸人を育てる」ための莫大なコストをかけています。これは、トップ芸人の収益があるからこそ可能なのです。

また、テレビ局や広告代理店との強固なパイプ、豊富な経験を持つマネージャー陣、トラブル対応など、芸人が安心して活動できる基盤の維持にも使われます。吉本興業というブランド力と営業力があるからこそ、個人では獲得できないような大規模な仕事を得られ、結果としてより多額のギャラを稼ぐことができるというメリットも、売れている芸人は享受しています。

この「再分配」の仕組みは、吉本興業が多数のタレントを抱え、育成・管理し、お笑い業界全体のエコシステムを維持していく上で不可欠なビジネスモデルであり、「巨大組織」のメリットを最大限に活かした形と言えます。

 


芸人の「安定」とは? 吉本興業が求める人材像

一般社会において「将来にわたって安定的」な職業は理想とされますが、お笑い芸人の世界に本当の「安定」は存在するのでしょうか? 答えは「極めて稀で、ほぼ存在しない」でしょう。芸人の人気は水物であり、仕事量は常に変動します。

しかし、トミーズ雅さんが令和ロマンのM-1優勝後の吉本退所に対して「20年間で2億4000万円を捨てたことになる」と発言した際の「安定的」という言葉には、吉本興業という巨大なバックボーンがあることのメリットが込められています。

吉本にとっての「安定」とは、決して一芸人として固定給が保証されるという意味ではありません。それは、以下の要素を指します。

  • 吉本という大組織の傘下にあることの安定性: 個人では獲得できないような大規模な仕事や、最低限の露出機会が保証される。

  • 最低限の生活を保証されるレベルの安定性: M-1優勝という実績があれば、たとえ一発屋で終わったとしても、劇場での営業や地方番組などで、最低限の仕事は確保しやすい。

  • 一発屋で終わらないためのサポート: マネージャーや作家など、吉本のサポート体制によって、長期的なキャリア形成がしやすい。

吉本興業のような巨大組織が経営を安定させる上で、「極端に面白いが不安定な芸人」よりも「安定して面白い芸人」の存在は非常に重要です。安定した収益源となり、メディアからの信頼も厚く、事務所のブランドイメージ維持に貢献します。彼らの収益が、リスクの高い「極端に面白い原石」への投資を可能にするのです。

 


吉本興業「一強」の理由と、揺らぐ安定

お笑い業界における吉本興業の「一強」ぶりは、その圧倒的な規模と影響力に裏打ちされています。

  • 圧倒的な芸人の数と層の厚さ: 6000人以上もの芸人を抱え、あらゆるメディアに安定した供給力を持ちます。

  • 独自の育成システムと劇場網: NSCや多数の常設劇場で、絶えず新しい才能を発掘し、育成するサイクルを確立しています。

  • メディアへの影響力とコンテンツ制作力: テレビ局との強いパイプや、自社での企画・制作能力により、お笑いコンテンツをリードしています。

  • 漫才・コントにおける確固たる地位: M-1など主要な賞レースでの存在感は揺るぎません。

しかし、近年、この吉本「一強」体制にも変化の兆しが見られます。その最大の要因は、YouTubeやSNSといった個人で稼げるインフラの整備です。芸人が事務所に頼らずとも、自分でコンテンツを作り、直接ファンと繋がり、収益を得ることが可能になりました。

これにより、高額な事務所の取り分や、きめ細やかなサポートが行き届かないマネジメント体制に不満を抱く芸人が、独立という選択肢を選ぶケースが増えています。また、コンプライアンス意識の高まりや、過去の「闇営業問題」をきっかけとした事務所の対応の変化も、一部の芸人にとって退所を決断する要因となっています。

 


吉本興業の多角的な事業展開:お笑いからエンタメ総合企業へ

吉本興業には、様々な才能を持つタレントが所属(イメージ)

吉本興業は単なる「お笑い事務所」の枠をはるかに超え、多角的な事業展開でその「一強」の地位を強固にしています。これは、所属芸人の活動領域を広げ、新たな収益源を確保するためでもあります。

  • コンテンツ制作・配信事業: テレビ番組や映画の制作・配給はもちろんのこと、近年はデジタルプラットフォームへの投資も積極的です。自社で運営する「FANYチャンネル」や、2022年に開局した「BSよしもと」は、芸人の新たな活躍の場となり、吉本独自のコンテンツを直接視聴者に届ける基盤となっています。これにより、テレビ局からのオファーを待つだけでなく、自ら仕事を生み出す循環を作り出しています。

  • 音楽・スポーツ・教育事業: 芸人の音楽活動をサポートする「よしもとミュージック」といった音楽レーベル事業も展開。さらに、スポーツイベントへの参画や、アスリートのマネジメント、地域に根差したスポーツ振興にも力を入れています。NSC以外の専門学校の運営など、教育分野への進出も進め、多様な才能を育成・サポートする体制を強化しています。

  • 地域創生と国際展開: 「住みます芸人」プロジェクトのように、全国各地に芸人を派遣し、地域活性化に貢献する取り組みは、新たなコミュニティとの接点を生み出しています。また、アジアを中心に海外展開も積極的に進め、日本の「お笑い」コンテンツを世界に発信することで、新たな市場の開拓にも余念がありません。

これらの多角的な事業展開は、所属芸人にとって多岐にわたる活躍の場を提供し、単なる「ネタをする芸人」ではない、様々な才能を持つタレントとしての可能性を広げています。同時に、事務所としては、お笑いライブやテレビ番組だけでなく、より多様なチャネルから収益を上げ、経営基盤を盤石にしています。

 


上場廃止の真相:創業家との対立と「痛い腹」

吉本興業が2010年に上場廃止した背景には、創業家(林家)と経営陣との激しい対立がありました。

創業家は長らく経営権を握っていましたが、経営陣(特に大﨑洋元会長)は、会社の近代化と成長のためには、旧来の同族経営からの脱却が必要だと考えていました。2007年には、役員人事を巡る「お家騒動」が勃発し、泥沼の様相を呈しました。

この状況下で、経営陣はMBO(マネジメント・バイアウト)による非上場化を画策。投資ファンドのTOBを通じて創業家の株式を買い取り、林家を経営から完全に排除することに成功しました。

そして、もう一つの大きな理由が、「反社会的勢力との関係の遮断」です。上場企業である限り、反社会的勢力との関与は厳しく規制され、情報開示の義務があります。長年の歴史を持つ吉本興業は、完全にこの関係を断ち切る必要があり、上場維持ではその厳しい監視の目に晒され続けることになります。非上場化することで、より迅速かつ徹底的に関係を断ち切り、クリーンな体制を構築することを優先した側面があったと考えられます。

つまり、吉本興業の上場廃止は、単なる経営戦略の転換だけでなく、創業家との権力闘争と、会社が抱える「痛い腹」を解決するための、非常に戦略的な選択だったと言えるでしょう。

 


ダウンタウンが変えた吉本の未来

吉本興業がプロパー主導の経営に切り替わり、現代的な企業へと変貌を遂げた背景には、ダウンタウンの存在が非常に大きいと言えます。

彼らの絶大な人気と影響力は、吉本興業に莫大な収益をもたらし、旧態依然とした経営体質から脱却するための経済的な基盤を築きました。そして、彼らを見出し、共に成長してきた担当マネージャーである大﨑洋氏が、後に社長、会長として吉本のトップに立ったことで、プロパー主導の経営が確立されました。

ダウンタウンの成功は、吉本興業が「劇場中心」のビジネスモデルから、テレビ、そして全国展開へと舵を切る大きな推進力となりました。彼らは、新しいお笑いの形を提示し、吉本のお笑いを全国区へと押し上げました。

直接的に経営権を握ったわけではありませんが、ダウンタウンという「顔」と、彼らを支え、信頼を築いた大﨑氏の経営手腕が密接に結びつき、吉本興業の経営体制を変革させる上で、非常に大きな影響を与えたのです。

 


お笑い界の華やかな舞台の裏には、厳しい競争、複雑な収入事情、そして巨大事務所の戦略と歴史が深く横たわっています。麒麟・田村さんの告白から始まったこの深掘りが、お笑い界の多様な側面を知る一助となれば幸いです。