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【文化遺産クライシス】高コストとずさんな管理:日本の文化財・美術品が抱える課題

文化遺産の保管は、膨大なお金がかかる(イメージ)

日本には、長い歴史の中で大切にされてきた古い建物や仏像、絵画などがたくさんあります。これらは単に古いだけでなく、私たちがどんな歴史をたどり、どんな文化を育んできたのかを教えてくれる、とても大切な文化遺産です。未来の子どもたちにもぜひ見てほしい、かけがえのない価値あるものたちです。

でも今、この大切な文化遺産の周りで、困ったニュースをよく耳にするようになりました。国宝の建物を直すため、別の文化財を売るしかないかもしれないお寺の話。自治体が持っている高価な美術品が、まさか何年も駐車場の片隅に置かれて傷んでしまった話。さらには、大金を払って買った絵が贋作だったという驚きの出来事まで。

こうした話を聞くと、日本の文化遺産は一体どうなっているんだろう?と心配になります。これらの個別の問題の背景には、実は文化遺産全体が抱える、3つの大きな課題が隠れています。それは、「お手入れにかかる大変なお金と人手」、「残念ながら今起きている、いい加減な管理」、「そして、そもそも宝を守る仕組みがおかしくなっていること」です。

なぜ、文化遺産がたくさんある日本で、こんな問題が起きているのでしょうか。

課題1:守り続けるための「見えない負担」

文化財や美術品を良い状態で保つには、時間と手間、そして何よりお金がかかります。特に、何百年も前の古い建物は、少しずつ傷んでくるので、定期的に専門家がお手入れしたり、時には大規模な修理をしたりする必要があります。屋根を葺き替えたり、柱を直したりと、専門の技術と材料が必要で、費用は簡単に数千万円、時には何億円にもなります。

重要文化財を売るかもしれないというお寺の話は、このお手入れにかかる費用が、所有者にとってどれほど大変な負担になっているかを示しています。国や自治体からの補助金が出ても、費用の全てはカバーされないため、お寺や自治体などが自分で相当なお金を用意しなければなりません。「売るしか手がない」という言葉は、もうこれ以上費用をかけられない、という所有者の切実な気持ちの表れです。絵画や彫刻なども、適切な環境で保管したり、傷んだ部分を直したりするのにお金がかかります。文化財がたくさんある場所ほど、この「見えない負担」が重くのしかかっています。

課題2:大切なものを傷つける「残念な扱い」

お手入れにお金がかかるからといって、必要なことをしないでおくと、文化遺産はどんどん傷んでしまいます。そして、そのいい加減な管理が原因で、取り返しのつかないことになってしまった例があります。

大阪府が持っていた、価値が2億2000万円もする彫刻作品105点が、なんと6年間も府庁の地下駐車場に置かれていたというニュースは、本当に驚きでした。そして、その後調べてみたら、作品にカビが生えたり、形が変わってしまったりしていたそうです。駐車場は、温度や湿度が変わりやすく、ホコリもたまる場所です。美術品を長く置いておく場所としては、全く向いていません。

なぜ、みんなの財産であるはずの美術品が、こんなひどい場所に放置されてしまったのでしょうか。これはただのミスではなく、美術品をどう扱うべきかという意識が低かったことや、きちんと管理する体制がなかったことを示しています。

文化財や美術品は、一度傷んでしまうと、元通りにするのがとても難しいものです。駐車場に置かれたことで傷ついた彫刻は、持っていた価値を大きく失ってしまったかもしれません。この話は、大阪府だけでなく、他の場所でも同じように、文化遺産がいい加減に扱われているかもしれない、という心配を抱かせます。気づかないうちに、大切なものが失われているのかもしれません。

課題3:宝を守る「仕組み」のほころび

では、なぜ、文化遺産のお手入れが大変で、しかもいい加減な管理が起きてしまうのでしょうか。その原因は、文化遺産を守るための「仕組み」そのものに問題があるからです。

一つは、「専門家の声が届かない」ことです。大金を払って贋作を買ってしまったり、美術品を駐車場に放置してしまったりといった問題の背景には、「美術品の専門家である学芸員が、組織の中で十分に力を発揮できていない」という状況があると言われています。学芸員は、文化遺産が本物か偽物かを見分け、どう保管し、どう手入れするのが良いかを知っているプロです。でも、専門家として大切な意見を言っても、それが受け入れられにくかったり、そもそも専門家が少なかったりすると、間違った判断や、いい加減な管理が起こりやすくなります。

もう一つは、「お金の使い方を決める上での優先順位」です。国や自治体が使うお金を決める時、文化財を守ることよりも、教育や医療、道路を作るなど、他の「今すぐ必要」に見えることが優先されがちです。文化遺産のお手入れは、すぐに結果が見えにくいため、「後回しでもいいか」と思われやすいのです。でも、必要なお手入れを遅らせると、後でもっとひどく傷んでしまい、直すのにもっとお金がかかることになります。

さらに、「誰が、どうやって管理するのか」という仕組みが複雑なことも問題を難しくしています。文化遺産は、国が持っていたり、自治体が持っていたり、お寺や神社、時には個人が持っていたりします。それぞれがお金や管理の状況が違うのに、お互いに協力したり、困った時に助け合ったりする仕組みが十分ではありません。特に、持ち主が高齢になったり、地域に人が少なくなったりしている場所では、文化遺産を守っていくのがますます難しくなっています。

結局、問題はお金が「ない」ことだけ?

ここまで、3つの課題を見てきましたが、これらの問題は結局のところ、「文化遺産を守るためのお金が足りない」という一点に尽きるのでしょうか?

確かにお金はとても大事です。お手入れにはお金がかかりますし、必要な予算が確保されないことは、所有者を困らせ、ちゃんとした管理をするのを難しくしています。これは課題1や課題3の一部が示す通りです。

しかし、残念ながら、ただ単にお金があれば全て解決するほど単純な話ではありません。たとえお金があっても、それをどう使うかが重要です。課題3で触れたように、専門家の意見を聞かずにいい加減な管理をしたり(課題2)、贋作に大金を使ったりすれば、お金はあっても文化遺産は守れません。

また、文化遺産を誰が持ち、誰が管理するのかという仕組みがバラバラで、関係者がうまく連携できていないことも大きな問題です。これは、単にお金を入れるだけで直るものではありません。

つまり、文化遺産の危機は、「お金がない」ことだけでなく、「お金をどう賢く使うか」「専門家をどう活かすか」「関係者みんなでどう協力する仕組みを作るか」といった、もっと複雑で根深い問題がいくつも絡み合って起きているのです。

未来へバトンを渡すために:今、私たちができること

このように、日本の文化遺産は、お金の問題、いい加減な管理、そして仕組みの歪みという、複数の難しい課題に直面しています。この状況を変え、大切な文化遺産を未来に繋ぐためには、色々な角度からの取り組みが必要です。

まず、お金の問題については、国や自治体が文化財保護にもっと予算を充当すること、そして企業や個人からの寄付、クラウドファンディングなど、新しい形でお金を集める方法をもっと使うことが求められます。文化遺産を守ることを、観光や地域の活性化につながる「将来への大切な投資」として考えることも必要です。

次に、いい加減な管理をなくすためには、美術品や文化財をどう保管し、どう管理するべきかというルールをしっかり作り、きちんと守られているかチェックすることが大事です。大阪府の例のように、問題が起きた時に誰が責任を取るのかをはっきりさせることも、同じ間違いを繰り返さないために必要です。そして、このルール作りやチェックには、学芸員のような専門家の知識が欠かせません。彼らの意見が、現場の管理方法を決める際にきちんと反映されるようにする必要があります。

さらに、仕組みの歪みを直すためには、専門家がもっと活躍できる場を作り、関係者が協力し合うことが大切です。学芸員が安心して働けるようにしたり、続けて勉強できる機会を作ったりして、彼らの専門性を高める必要があります。そして、国、自治体、お寺や個人など、様々な所有者が、文化財に関する情報を共有したり、困った時に助け合える仕組みを作るべきです。例えば、修理に必要な技術を持つ人が少ない地域で、他の地域から専門家を呼べるようにしたり、複数の施設で一緒に使える保管場所を作ったりすることも考えられます。

文化財や美術品は、単なる古いモノではなく、私たちの歴史や文化、アイデンティティそのものです。これらが適切に守られず、失われていくことは、私たちが過去と繋がる絆を断ち切り、未来への可能性を狭めることを意味します。

「美術品がたくさんある国」として胸を張る一方で、その大切な価値あるものたちが、見えないところで傷つき、悲鳴を上げている。この現実から目を背けず、文化遺産が直面する複合的な課題に、私たちみんなで向き合い、具体的な行動を起こしていく時が来ています。未来へのバトンを、良い状態で次の世代に手渡すために。