最近、小さなお子さんと話していると、「じいじがね」「ばあばといったよ」という言葉を耳にすることが多くなりました。「おじいちゃん」「おばあちゃん」という呼び方も健在ですが、体感としては「じいじ・ばあば」がすっかり一般的になったと感じている方も多いのではないでしょうか。
孫が祖父母をどう呼ぶか。これは単に可愛らしい幼児語が広まったというだけの話ではないようです。実はこの呼び方の変化には、現代の家族のあり方や、祖父母と孫の関係性の変化、さらには社会全体の移り変わりが深く関係している――そう分析する専門家もいます。
今回は「じいじ・ばあば」という呼び方がなぜこれほどまでに増えたのか、そしてそれが映し出す「いま」の家族とはどのようなものなのかを読み解いていきたいと思います。
かつての「おじいちゃん・おばあちゃん」が象徴していたもの
かつて、祖父母といえば「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ぶのが一般的でした。この呼び方には、どのようなイメージがあったでしょうか?
多くの場合、それは少し丁寧で、敬意を含んだ響きだったように感じられます。三世代同居が珍しくなかった時代においては、祖父母は家庭の中で生活を共にする存在であり、子育てや家事においても重要な役割を担っていました。同時に、年長者としての経験や知恵を持ち、一家の精神的な支柱や規範を示す存在として、一定の威厳や距離感を持って見られることもあったでしょう。
「おじいちゃん」「おばあちゃん」という呼び方は、こうした昔ながらの家族構造や、祖父母と孫の間に自然と存在した(あるいは保たれていた)一定の距離感を反映していたと言えるかもしれません。呼び名そのものに、その人の立場や家族内の役割が内包されていたのです。
なぜ今、「じいじ・ばあば」が主流になったのか?
では、なぜ近年になって「じいじ・ばあば」という呼び方が急速に広まったのでしょうか。記事や関連情報を踏まえると、いくつかの要因が考えられます。
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核家族化と物理的な距離: 現代では、親世帯と子世帯が離れて暮らす核家族が圧倒的に多くなりました。かつてのように日常的に顔を合わせることが減り、孫との交流は週末や長期休暇に限られるケースも少なくありません。こうした状況で、限られた時間の中で孫との心理的な距離を縮め、より親密な関係を築きたいという祖父母や親の願いが、「じいじ・ばあば」という親しみやすい呼び方を選ばせる一因になっていると考えられます。
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少子化が生む「特別な存在」: 兄弟姉妹が多かった時代に比べ、現代は一人っ子や少ない兄弟構成の家庭が多数です。これにより、孫一人ひとりに対する祖父母の愛情や関心がより一層集中する傾向があります。孫は祖父母にとって、より「特別な存在」となり、その「特別さ」が「じいじ・ばあば」という、どこか甘く、パーソナルな響きの呼び名に表れているとも考えられます。
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祖父母世代の意識とライフスタイルの変化: 現代の祖父母は、かつての祖父母に比べて若々しく、アクティブな人が増えています。退職後も趣味を楽しんだり、パートタイムで働いたり、ボランティア活動にいそしんだりと、多様なライフスタイルを送っています。「おじいちゃん・おばあちゃん」という呼び方に「年寄りくさい」といったイメージを持つ人もおり、自分たちはもっと若々しく、孫とフラットに近い関係でいたいという意識から、「じいじ・ばあば」と呼ばれることを好む、あるいは自ら名乗るケースも増えているようです。
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子供中心のコミュニケーション: 「じいじ」「ばあば」は、「おじいちゃん」「おばあちゃん」に比べて音の響きが短く、幼い子供でも発音しやすいと言われています。子供にとっての「言いやすさ」や「親しみやすさ」を重視する傾向が強まったことも、この呼び方が広まった要因の一つでしょう。親が子供に意図的に「じいじだよ」「ばあばだよ」と教えることで、自然と定着していった側面もあります。
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メディアの影響: テレビ番組、絵本、CMなどで「じいじ」「ばあば」という言葉が使われる機会が増えたことも、呼び方の普及に拍車をかけました。メディアを通じて子供や親がこの呼び方に触れることで、「一般的な呼び方」として認識されやすくなったと考えられます。
これらの要因が複合的に絡み合い、「じいじ・ばあば」という呼び方は、現代の家族における祖父母と孫の距離感や関係性を象徴する言葉として定着していったと言えるでしょう。
呼び名が映し出す、現代家族の「近さ」と摩擦
「じいじ・ばあば」という呼び名が広まった背景には、このように祖父母と孫の関係性をより近く、親密にしようという意図や自然な流れがあります。それは、温かい交流や手厚いサポートを生む一方で、新たな「距離感」を巡る課題も生じさせているようです。
記事で「虫酸が走る」といった強い拒否反応が紹介されていたように、「じいじ・ばあば」という呼び方や、それに伴う過度な馴れ馴れしさ、ベッタリとした関係性に違和感や不快感を覚える人も少なからず存在します。特に、祖父母側が自らを「じいじ」「ばあば」と称し、孫にそのように呼ばせることに対して、「適切な距離感がなく不快だ」と感じる人もいるようです。
これは、「親しき仲にも礼儀あり」ではないですが、近すぎる関係性が必ずしも全ての人にとって心地よいわけではないという現実を示しています。呼び名一つをとっても、祖父母と親、それぞれの世代間での家族観や、理想とする祖父母と孫の距離感に違いがあることが浮き彫りになります。
呼び方はツール、大切なのは「どんな関係を築くか」
祖父母の呼び方が多様化し、「じいじ・ばあば」が一般的になった背景には、確かに現代社会や家族構造の変化があります。そして、その呼び名はある意味で、現代の祖父母がより身近で、孫にとって親しみやすい存在であろうとしている姿、あるいは親が祖父母との関係性をよりフラットに捉えている姿を映し出していると言えるでしょう。
しかし、呼び方自体はあくまでコミュニケーションのツールです。「じいじ・ばあば」と呼ぶか、「おじいちゃん・おばあちゃん」と呼ぶか、あるいはその他の呼び方をするかに関わらず、最も大切なのは、お互いを思いやり、尊重し合える関係性を築くことではないでしょうか。
もしかしたら、呼び方を巡るちょっとした違和感や議論は、それぞれの家族にとって「心地よい距離感とは何か」「祖父母との理想の関係性は何か」を話し合う良い機会になるのかもしれません。
あなたの家族では、祖父母をどう呼んでいますか? その呼び名には、どんな思いや歴史が込められているでしょうか。そして、そこから見えてくるあなたの家族の「いま」の距離感とは、どのようなものでしょうか。呼び名を通して、改めて家族のあり方について考えてみるのも良いかもしれません。