「100倍株」。この響きには、多くの投資家の夢とロマンが凝縮されています。しかし、その壮大な果実を手にするためには、時代の胎動を敏感に察知し、来るべき大きな波に乗る必要があります。いかにして、未来を切り拓く企業を見出し、投資へと繋げるのか?
今回、その問いへの深遠な示唆を与えてくれるのが、Windows 95やInternet Explorer 3.0の開発に貢献し、自らのソフトウェア会社を実に352億円で売却するという輝かしい経歴を持つ、伝説的プログラマーにして稀代の投資家、中島聡氏です。PIVOT公式チャンネルが配信した2本のYouTube動画で語られた、彼の独自のアプローチに迫ります。
参照動画:
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- 【100倍株】中島聡の保有銘柄・情報源を公開/三木谷・孫・柳井をどう見る?/メタトレンド+推し活が最強/注目テック系ベンチャー/ビットコインの可能性【MONEY SKILL SET EXTRA】
中島聡氏が提唱するのは、「メタトレンド投資」という巨視的な視点と、自身の内なる共感を信じる「推し活投資」という極めて個人的な感性を融合させた、他に類を見ない投資哲学です。その精緻な世界観を紐解いていきましょう。
時代の潮流を見極める「メタトレンド投資」の本質
中島聡氏の投資戦略の核心に据えられているのが、「メタトレンド投資」です。これは、刹那的な流行に惑わされることなく、社会構造や技術基盤の根本的な変革をもたらす、長期にわたる巨大な技術的潮流を洞察し、その恩恵を最も享受しうる企業に資本を投じるというものです。
彼にとって、企業の現時点での財務諸表は二次的な情報に過ぎません。それよりも遥かに重要視するのは、経営者、とりわけCEOが描く未来へのビジョン、そしてそれを実現しようとする inextinguishable な情熱の度合いです。CEOの描く未来図が、やがて押し寄せる巨大な波の方向と合致しているかどうかが、投資判断の決定的な要素となるのです。
成功裏にこの戦略を体現した事例として、スマートフォンの到来を予見したApple、GPU技術で今日のAI・データセンター時代を切り拓いたNVIDIA、そして電気自動車市場を再定義したTeslaといった企業が挙げられます。特にTeslaについては、Model Xの実物に触れた際の衝撃が、投資へと背中を押したと言います。
次なる「メタトレンド」の行方:中島氏の予測
では、中島氏が次に人類社会を大きく変えると見据える「メタトレンド」は何でしょうか。彼の洞察によれば、今後10年から20年の間に、「人間と見紛うほどのロボット」が様々な産業や日常生活に革新をもたらす可能性が極めて高いとのことです。そして、この未来を牽引するであろう中心的なプレイヤーとして、彼は再びTeslaとNVIDIAの名を挙げています。
カリスマ性の真贋を見抜く目:スティーブ・ジョブズと「現実歪曲空間」
メタトレンド投資において、企業の「顔」であるCEOの資質は、文字通り企業の命運を握ります。中島氏が理想像とするのは、故スティーブ・ジョブズが体現したような、自身の強固なビジョンで周囲をも感化し、不可能を可能にするかのような「現実歪曲空間」を創出できる人物です。
一方で、表面的なカリスマ性は持ちながらも、結局事業を破綻させてしまった例として、セラノスやWeWorkの元経営者たちの名前を挙げ、警鐘を鳴らします。また、AI分野で注目を集めるOpenAIのサム・アルトマン氏が取る大胆なリスクについても、一定の懸念を示唆しています。
特にテクノロジーを主軸とする企業においては、CEO自身が技術に対する深い理解を持つことが極めて重要だと中島氏は力説します。技術的素養なくしては、世界クラスのエンジニアリング人材を惹きつけ、適切な研究開発投資や技術判断を行うことは困難になるためです。
日本の著名経営者たちへの視線:三木谷浩史氏(楽天)の場合
このような独自のCEO観を持つ中島氏から見た、日本の経済界を代表する著名な経営者への視線も興味深いものがあります。
例えば、楽天グループを率いる三木谷浩史氏については、その手腕を認めつつも、中島氏がテクノロジー企業のCEOに求める理想像とはやや異なる評価をしているようです。中島氏の基準では、特にテック企業においてはCEOが技術的なバックグラウンドを持つことが重要ですが、三木谷氏の場合は「バンカー(銀行家)」としての側面が強く、純粋な技術ビジョナリーとは異なるように感じている様子です。このため、テック企業としての楽天に対する投資判断には、慎重な姿勢が見られます。CEOの出自が、その企業の技術開発力や将来性を左右するという、中島氏ならではの厳格な視点がうかがえます。
理屈を超えた共感が力となる「推し活投資」
メタトレンドという巨視的な戦略に加え、中島聡氏の投資哲学を個性づけるもう一つの要素が「推し活投資」です。これは、企業の財務諸表や市場データといった理性的な判断基準に加え、その企業の製品やサービス、あるいは哲学に対する個人的な「推し」の感情、つまり心からの共感や応援したいという情熱を、投資判断の重要なファクターと位置づけるものです。
彼が最初に株式を購入したのが、当時の経営者が原子力と半導体という未来技術の研究開発に力を入れていた東芝だったというエピソードは、まさにこの「推し活」の原点を示すかのようです。論理だけでなく、感情が投資を動かす力になり得ることを示唆しています。
中島氏が選ぶ、未来を担う企業たち
動画では、中島聡氏が現在ポートフォリオに組み入れている、あるいは強い関心を寄せている具体的な企業名が複数明かされました。
- Netflix: DVDレンタル事業からオンラインストリーミングへと見事に舵を切った変革期から保有し、その先見性を高く評価しています。
- Amazon: Eコマースのインフラ基盤としての圧倒的な力を認めつつも、一ユーザーとしては改善を望む点もあるようです。
- Qualcomm: NVIDIAへの投資に対するヘッジ、特に低消費電力チップ技術への期待から保有しています。
- Berkshire Hathaway: 投資家として敬愛するウォーレン・バフェットへの信頼に基づく投資です。
- Palantir: 政府関連のAI分野における突出した強みを評価しています。
- Anduril: 軍事用ドローンなどを手がける企業で、未公開ながら上場すれば投資を検討する可能性があるとのことです。
- Grok: 強力なAI推論能力を持つとして注目しているベンチャーです。
- SpaceX: 宇宙開発という壮大なビジョンを持つ企業として、強い関心を寄せています。
懸念を示す企業と広範な市場観
その一方で、中島氏が投資に慎重な姿勢を見せる企業や、特定の市場に対する見解も明確に示されています。
- 楽天: 前述の通り、CEOのバックグラウンドが理由の一つとして挙げられています。
- Google: AIの進化が検索ビジネスにもたらす潜在的な影響を懸念し、一時的に売却しましたが、後に再投資しています。
- Salesforce: ソフトウェアの使い勝手に対する個人的な不満から、否定的な見方を示しています。また、AIネイティブな新興企業が、Salesforceのような既存のB2B SaaS市場を今後大きく揺るがす可能性を指摘しています。
メタトレンドとしては、ヒューマノイドロボットやロボタクシーといった領域に加え、VR/ARグラスも将来性があるとしつつも、広く普及するにはまだ課題が多いとの認識です。
中国市場については、技術的な進歩には目覚ましいものがあるとしつつも、地政学的なリスクの高さから投資には極めて慎重な姿勢を崩していません。
情報収集の源泉としては、The Information、Bloomberg、The New York Timesといった海外の専門メディアを主に活用しているとのことです。
ビットコインについては、法定通貨の価値変動に対するヘッジ資産としての可能性を認めつつも、現時点ではより安定した価値を持つとされる金を好むと述べています。
結論:未来への解像度と「推し」の力が投資を駆動する
中島聡氏の投資哲学は、単なる合理的な分析を超えた、未来への深い洞察と、自身の内なる声に耳を傾ける感性の融合にあります。巨大な技術の潮流(メタトレンド)を的確に捉え、その波に乗る企業の「未来像」と、それを現実のものとしようとするCEOの「燃えるような情熱」を見抜く力。そして、時には理屈を超えて「応援したい」と思える企業に賭ける勇気(推し活)。
NTTやマイクロソフトといった巨大組織での経験、自社を成功に導き352億円という大きな成果を得た起業家としての手腕、さらには26,000人もの読者を持つメールマガジン「Life is Beautiful」での継続的な発信活動。こうした多角的な経験こそが、彼のユニークな投資哲学を形作っていると言えるでしょう。
彼の言葉に触れると、投資とは単に資産を増やす手段に留まらず、自らが信じる未来を応援し、その実現に貢献していく、創造的かつ情熱的な営みであるように感じられます。
100倍株という壮大な目標に挑むにせよ、中長期的な視点で資産形成を目指すにせよ、中島聡氏の「メタトレンド投資」と「推し活投資」の考え方は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。未来への解像度を高め、自身の心惹かれる「推し」を見つけること。それこそが、投資という旅路において羅針盤となるのかもしれません。