地方での長年の暮らしにピリオドを打ち、心機一転、東京でのセカンドライフや新たな挑戦を選んだ中高年世代。
「いつかは東京で暮らしてみたい」「子どもの近くに」「文化的な生活を送りたい」…様々な夢や期待を胸に、大きな決断をして移り住んだはいいものの、実際に数年、あるいは10年以上が経過した今、彼らは東京での日々をどう感じているのでしょうか?
今回は、いくつかの異なる背景を持つ移住者の方々(※特定の個人ではなく、実際の事例や想定される状況を基にした代表的な声としてお読みください)を通して、東京移住の「ぶっちゃけ、どうなの?」という本音に迫ります。
ケース①:定年を機に、子世帯の近くへ移住したAさんご夫妻(60代・移住歴5年)
九州の県庁所在地から、東京近郊のマンションに夫婦で移り住んで5年になるAさんご夫妻。お子さん夫婦がこのエリアにマイホームを建てたことが、移住の大きなきっかけでした。
「住み慣れた土地を離れるのは寂しさもあったけど、やっぱり孫の顔が見られるのは何より嬉しいですね。以前は年に数回しか会えなかったのが、今は週末に気軽に遊びに行ったり、向こうが来たり。子どもの近くに住む目的は、期待通り、いやそれ以上に満たされています」と語る夫のAさん。
一方で、奥様はこう漏らします。「便利なのは確か。お店も病院も選び放題だし、どこへ行くにも電車ですぐ。でもね、正直、お金はすごくかかります。地方の感覚でいるとあっという間にお金が減っていく。外食一つとっても高いし、デパートに行けばつい…(笑)。『悠々自適なセカンドライフ』というよりは、思っていたより現実的で、結構地道に節約してますね。マンションの管理費や修繕積立金も、戸建てだった以前はなかった負担ですし」
また、ご近所付き合いについては、「皆さん挨拶はするけど、地方みたいに『ちょっと醤油貸して』とか、そういう関係ではないですね。サッパリしていて楽な面もあるけど、体調を崩した時なんかは、ちょっと心細いと感じることもあります」とのこと。孫の顔が見られる喜びがある一方で、経済的な厳しさや人間関係のあっさりさに「これが東京なんだな」と感じているようです。
ケース②:刺激と新たな挑戦を求めて単身移住したBさん(50代後半・移住歴10年)
東北地方の、比較的のどかな町で生まれ育ったBさん。長年勤めた会社を早期退職し、「このまま何となく年を取るのが嫌だった」「一度、全く違う環境に身を置いてみたかった」と、単身東京へ。移住してすでに10年が経ちました。
「最初の数年は、毎日が発見で本当に楽しかったですね。美術館や劇団に通ったり、今まで知らなかった世界に触れて。人との出会いも多くて刺激的でした。あの時、思い切って移住して本当に良かったと思っています」と、移住の決断自体は全く後悔していないと強調します。
しかし、10年という時間が経過したことで、見えてきたリアルもあると言います。「仕事は辞めて自由な時間はたくさんあるはずなのに、地方にいた頃より何となく忙しないというか。予定を詰め込みすぎたり、人混みで疲れたり。それに、やっぱり完全に心を許せるような、昔からの友人みたいな存在を作るのは難しいですね。表面的な付き合いはたくさんできても、いざという時に深く相談できる相手となると…。休日に一人でいると、ふと地元の友人たちの笑い声が恋しくなることもありますよ」
また、健康面への意識も高まったそうです。「満員電車や不規則な生活は、若い頃より体にこたえますね。ジムに通ったり、意識的にウォーキングしたりしないと、運動不足になりがちです。医療は選び放題ですが、逆に多すぎて迷うし、大きな病院は待ち時間も長い。かかりつけ医探しは大切だと痛感しています」と、長年の東京暮らしで得た知見も語ってくれました。
ケース③:Uターンからの再移住? 紆余曲折を経て東京に落ち着いたCさん(60代前半・今回の東京暮らしは7年目)
一度は東京で働き、結婚を機に地方の実家近くへUターンしたものの、様々な事情で再び東京へ戻ってきたCさん。今回の東京暮らしは7年目になります。
「一度Uターンして地方で暮らしてみて、改めて東京の良さを実感した、というのが正直なところです。特に、買い物の便利さ。地方だと大きな買い物は隣県まで行ったり、ネットに頼るしかなかったり。東京なら、大抵のものはすぐ手に入りますからね。あとは、交通の便。どこへでもスッと行ける。このフットワークの軽さは、地方では得られません」と、かつてのUターン経験と比較して東京のメリットを語ります。
一方で、若い頃に東京にいた頃との違いも感じているようです。「体の衰えですかね。以前は終電近くまで飲んだり、夜遊びしたりも平気だったけど、今はもう無理(笑)。生活リズムも地方にいた頃みたいに早寝早起きになりました。人混みも、昔は気にならなかったのに、最近はちょっとしんどいなと思う時があります」と苦笑い。
「長く住めば住むほど、東京の『普通』に慣れてしまう。最初の『わー、東京だ!』みたいな感動は薄れます。でも、地方の良さも東京の良さも両方知っているからこそ、今は東京で暮らすのが自分には合っていると思えるのかな。大変なことも含めて、これが自分の選んだ道だし、今さら地方に戻って一から人間関係を作るよりは、ここで細く長くやっていこう、という気持ちですね」と、地に足の着いた視点で語ってくれました。
まとめ:「ぶっちゃけどうなの?」 光と影、そして自分らしい着地点
中高年で地方から東京へ移住した方々の「正直な感想」からは、やはり「利便性や刺激」という光と、「コストや人間関係、体力的な負担」という影の両面があることが分かります。
しかし、多くの人が共通して語るのは、「大変なこともあるけれど、移住したこと自体は後悔していない」という言葉です。それは、彼らがそれぞれの理由(家族、挑戦、利便性など)において、東京での生活で大切なものを得られているからでしょう。
大切なのは、移住前に憧れやメリットだけでなく、デメリットや厳しさもしっかりと認識し、現実的な準備をすること。そして、移住後には、地方での経験も踏まえつつ、東京という環境の中で自分にとって心地よい暮らし方、人との繋がり方を見つけていくことかもしれません。
この記事が、これから東京移住を考える中高年の方々にとって、「ぶっちゃけ、どうなの?」という疑問への、少しでもリアルなヒントになれば幸いです。