先日、オリエンタルランド(OLC)が発表した「東京ディズニーリゾートの将来に向けた開発構想について」というプレスリリースは、単なる開発計画の発表に留まらず、2035年という長期スパンでTDRをどのように進化させていくのか、その経営哲学と具体的な野望を詳細に示した「2035長期経営戦略」のエッセンスが凝縮されたものでした。
特に耳目を集めたのは、2035年度における売上高1兆円超という、極めて野心的な経営目標です。この高い目標達成のため、そして今後も「選ばれ続ける存在」であり続けるため、OLCはパーク、ホテル、さらには新たな事業領域への展開を含む、多角的かつ緻密な戦略を着実に進めようとしています。
このブログ記事では、プレスリリースの内容をさらに深掘りし、1兆円目標に至る道のり、そしてそれを支える戦略の「具体性」と「連動性」に焦点を当てて解説します。
戦略の羅針盤:「ゲスト」「経営」「社会」の3つの柱
「2035長期経営戦略」は、以下の3つの骨子を基盤としています。これらは相互に関連し合い、TDRの持続的な成長と1兆円目標達成の推進力となります。
- ゲストエクスペリエンスの深化: 時代とともに変化するゲストのニーズや行動様式に対応し、これまでにない新しい体験や、よりパーソナルでシームレスな体験を提供することを目指します。テクノロジーの活用もこの柱の重要な要素です。
- 強靭な経営基盤の確立: 収益力の最大化はもちろん、運営効率の向上、投資効率の最適化、そして重要な「人財」であるキャストの体験価値向上や働きがいのある環境づくりまでを含みます。データとデジタル技術の活用が不可欠となります。
- 社会との共通価値創造: サステナビリティ推進や地域社会との共生を通じて、企業としての社会的責任を果たし、社会全体から「あってよかった」と思われる存在であり続けることを目指します。
これらの柱を着実に実行することで、2035年度に売上高1兆円超という、現在の約2倍(※2023年度実績約6000億円に対し)にも迫る目標を達成しようというのです。
パークの未来を創る:「用地のダイナミックな再編」と具体的プロジェクト
1兆円目標達成の最重要拠点であるテーマパークでは、「用地のダイナミックな再編」という戦略がその根幹を担います。これは、既存の約100ヘクタールという限られたプロパティ(用地)のポテンシャルを最大限に引き出し、将来の需要やテクノロジーの変化にも柔軟に対応できる、機動的かつ効率的な土地活用を実現するための考え方です。単なる空き地の開発ではなく、老朽化施設の対応や、既存エリアの構造そのものを見直すことも含まれると示唆されています。
この「用地のダイナミックな再編」を体現する、具体的な大規模プロジェクトが既に進行・計画段階に入っています。
- スペース・マウンテンおよび周辺エリア開発 (約705億円投資 / 2027年完成予定): これは「用地のダイナミックな再編」によるエリア刷新の具体的な第一歩として位置づけられています。アトラクションだけでなく、周辺環境全体が生まれ変わることで、エリアの回遊性や体験価値が飛躍的に向上し、「ゲストエクスペリエンスの深化」に大きく貢献します。
- 『シュガー・ラッシュ』をテーマとした新規アトラクション開発 (約295億円投資 / 2026年度以降開業予定): 投資額も確定し、具体的な開業時期も見えてきました。これはパーク内に新しい魅力的なコンテンツを加える直接的な投資であり、「ゲストエクスペリエンスの深化」を加速させ、集客増・リピート促進に繋がります。
これらの開発は個別のプロジェクトであると同時に、「用地のダイナミックな再編」という大きな設計思想のもと、パーク全体の最適化と将来的な進化の土台を築くものとして進められます。
リゾート全体を強化:ホテル事業と新たな滞在スタイル
1兆円目標達成のためには、パーク内の収益だけでなく、リゾート全体としての収益力を高めることも不可欠です。その柱となるのがホテル事業です。
プレスリリースでは、東京ディズニーリゾート周辺での新規ディズニーホテルの増設検討が明記されています。質の高い宿泊施設を増やすことは、遠方や海外からのゲストの長期滞在を促進し、宿泊費だけでなくパークチケットやグッズ、飲食など、リゾート全体での消費額増加に繋がります。これは「強靭な経営基盤の確立」に直接的に貢献する施策です。
成長のフロンティア:年間数百億円規模を目指すクルーズ事業
そして、「2035長期経営戦略」における最も注目すべき、かつ売上高1兆円超目標達成に向けた新たな推進力となりうるのが、ディズニー・クルーズ・ライン事業への参入検討です。
この新規事業について、プレスリリースでは検討段階としつつも、非常に具体的な目標と計画が示されています。
- 第1船の運航開始目標: 2028年度
- 将来的な検討: 第2船の就航
- 事業規模目標: 年間数百億円規模の売上貢献
「年間数百億円規模」という具体的な数字目標は、このクルーズ事業が単なる話題作りやブランド力向上に留まらない、OLCにとっての新たな収益の柱となりうることを明確に示しています。2028年度に第1船を就航させ、さらに2隻目も視野に入れるという計画は、この事業を長期的に本格展開していく強い意思の表れです。TDR訪問と組み合わせた新しい旅のスタイルや、アジア市場におけるクルーズ需要の取り込みなど、大きな可能性を秘めた「成長のフロンティア」と言えるでしょう。
戦略の基盤を支えるもの:キャストとテクノロジー
これらの華やかな開発や新規事業を支える、「強靭な経営基盤の確立」に向けた取り組みにも、プレスリリースでは言及されています。
特に重要なのが、「キャストエクスペリエンスの向上」です。最高のゲスト体験は、最高のキャストの働きによって生まれます。従業員が働きがいを感じ、誇りを持って働くことができる環境を整備することは、サービス品質の向上、ひいてはゲスト満足度やリピート率に直結する、長期戦略の要の一つです。
また、データとデジタル技術の活用も、経営基盤強化とゲスト体験深化の両面で不可欠です。ゲストの行動分析に基づくパーソナルな情報提供、パーク内の効率的な運営、データに基づいた意思決定など、テクノロジーは今後のTDR運営のあらゆる側面に浸透していくでしょう。
1兆円目標達成へ:相互に連動する壮大な計画
今回の「2035長期経営戦略」と開発構想の発表は、売上高1兆円超という具体的な目標に向け、OLCがパークの内部構造改革、既存事業の強化、そして新たな事業領域への大胆な進出を、すべて連動させて進めていることを明確に示しています。
「用地のダイナミックな再編」によるパークの収益性・魅力向上、新規ホテルによるリゾート滞在の促進、そしてクルーズ事業という新たなキャッシュフロー。これらが相互に作用し、シナジーを生み出すことで、OLCは2035年に向けた飛躍的な成長ロードマップを描いています。
公開された情報の一つ一つが、この壮大な計画のピースです。今後の詳細発表にも注目し、2035年にTDR(そしてOLC)がどのような姿へと進化しているのか、楽しみに見守りましょう。売上高1兆円超という目標が、単なる数字ではなく、私たちの体験する「魔法」の進化と、それを支える強固な経営基盤の証となる未来に期待せずにはいられません。