TBS、そしてフジテレビ。日本のメディアを牽引する大手テレビ局で今、立て続けに報じられるハラスメントや性加害に関するニュースは、私たちに強い衝撃と不信感を与えています。これらは単発の不祥事として片付けられるべき問題ではなく、テレビ・メディア業界に深く根差した構造的な闇、その「氷山の一角」がついに露わになった事態と言えるでしょう。私たちは今、この見過ごされてきた業界の現実に、具体的な事例を通して向き合うことを迫られています。
TBSが認めた「4事案」の重み…「被害後もプロとして」強いられた痛み
まず、TBSで複数のハラスメント事案が確認され、会社が謝罪したという報道がありました。この調査報告では、アナウンサーを含む複数の関係者に対する、具体的な4事案が明記されたと報じられています。これらの事案にはセクハラなども含まれるとされており、テレビ局という組織内で起きた深刻な人権侵害であることがうかがえます。
何よりも衝撃的で、胸を締め付けられるのは、被害に遭われた方々が、被害後も番組への出演を継続せざるを得なかったという現実です。精神的な苦痛や、加害者と同じ職場で働かなければならないという耐えがたいストレス、そして今後のキャリアへの不安などを抱えながら、テレビの画面ではプロとして笑顔を作り、何事もなかったかのように振る舞い続けなければならなかったのです。その裏側で、彼らがどのような思いを抱え、どれほどの自己犠牲を強いられていたのか、想像に難くありません。なぜ、組織はすぐに適切な対応を取り、被害者を守ることができなかったのか。これは、問題を表沙汰にしたくない、波風を立てたくないといった組織の保身や、ハラスメントに対する意識の低さといった、テレビ局という巨大な組織に潜む構造的な問題が、具体的な被害者の痛みを伴って示されています。
「今晩相手してよね」…ベテラン女優の生々しい告白が暴いた業界の慣習
そして、このTBSの報道と時期を重ねるように、女優、タレント、そして大学教授としても活躍されるいとうまい子氏の勇気ある告白が大きな注目を集めています。彼女が語ったのは、過去に芸能界で経験したという、権力を持つ立場の人から受けたという「今晩相手してよね」という、あまりにも生々しい性接待要求でした。そして、それを拒否した途端に番組を降板させられたという、キャリアに直接影響する報復行為。さらには、番組制作における「やらせ」への加担を求められたことまで示唆しています。
いとう氏は、長年の沈黙を経て、大学教授という確固たる立場を得てからこの告白に踏み切ったと言われています。これは、芸能界という閉鎖的な世界では、立場が弱ければ弱いほど、こうした不当な要求や不正を拒否したり、ましてや告発したりすることが、いかに仕事を失うこと、キャリアを絶たれることへの恐怖と直結しているかを示しています。「悪ははびこりますよ」といういとう氏の言葉は、こうした問題が決して過去のものではなく、「今晩相手してよね」といった具体的な言葉が飛び交うような慣習が、業界に根強く残り続けている現実への強い危機感の表れでしょう。
フジテレビで続出する衝撃証言 - 「性被害」「キス強要」…「テレビ業界が産んだモンスター」の闇
さらに深刻なのは、今度はフジテレビに関する具体的な告発や証言が次々と報じられていることです。まず、元女性ADが実名で告発したのは、特定のチーフプロデューサー(報道ではB氏)からの執拗な性被害でした。
加えて、この人物(B氏)については、元女性ADの告発以外にも、複数の人物から様々な証言が寄せられています。例えば、入社面接という、本来は応募者の能力を測る場であるにも関わらず、不適切なモノマネを強要されたり、キスを迫られたりしたといった証言が報じられています。
これらの、複数の関係者からの具体的な行為に関する証言は、特定の個人の悪質性だけでなく、「キス強要」や「性被害」といった具体的な行為が長年にわたり権力を行使し続け、その不正が見過ごされてきた、あるいは隠蔽されてきた業界の土壌そのものが問題であることを、具体的な行為をもって示しています。だからこそ、「テレビ業界が産んだモンスター」という強い言葉が使われているのでしょう。
また、フジテレビの調査報告書に関連する報道の中では、過去に元フジテレビ専務取締役だった大多亮氏と女優・鈴木保奈美氏の間に、当時社員と芸能人という立場で関係があったことにも言及があったとされています(ただし、報道ではこれが今回の調査報告書でハラスメントや性加害として認定されたと報じられているわけではありません)。この過去の事例が、調査報告書に関連する報道の中で、特に「社員と芸能人が一線を越えて…」「スポンサーも同罪」といった見出しとともに取り上げられている点は、テレビ局の権力者と芸能人という関係性が、単なる個人の関係性としてではなく、業界の慣習や構造、さらには「スポンサー責任」といった問題と無縁ではないことを示唆しており、今回の問題の背景を考える上で非常に示唆深いと言えるでしょう。
「力関係」が温床となる「闇」のメカニズムと業界の根深い隠蔽体質
これらのTBS、いとう氏、そしてフジテレビで立て続けに報じられた具体的な事案から共通して見えてくるのは、いずれも圧倒的な「力関係」が悪用されているということです。テレビ局のプロデューサーや上層部、制作会社の責任者、芸能事務所の幹部、さらには番組の資金を握るスポンサーなど、力を持つ側が、出演者や立場の弱いスタッフ(ADなど)に対して、その仕事の機会やキャリアを盾に、不当な要求や性的な関係を迫る。「今晩相手してよね」と言われ、「キス強要」され、「執拗な性被害」を受ける。拒否すれば、番組を降板させられ、業界から干されるといった報復が待っている。この恐怖こそが、被害者を沈黙させ、「声なき声」を生み出してきた根本原因です。
しかも、これらの問題は長年、業界内で「常識」「慣習」として見過ごされてきた側面があります。TBSの件が「中居正広問題の余波」として公になったこと、いとう氏が長年沈黙せざるを得なかった状況、そしてフジテレビのB氏に関する「キス強要」や「面接での不適切要求」といった具体的な複数の証言があるにも関わらず、問題が表面化しにくかったという事実は、テレビ・メディア業界内部からの自浄作用が極めて働きにくい体質があることを痛烈に物語っています。「予想通りの反応だ」という声があることからも、業界の闇の存在を知りつつも、その改善が進まない現状への根深い諦めが広がっていることがうかがえます。
「スポンサーも同罪」が突きつける業界全体の責任と倫理観
さらに、フジテレビの調査報告書に関する報道で「スポンサーも同罪」と指摘されている点は、この問題がテレビ局単独の責任ではないことを明確に示しています。巨額の広告費を投じ、番組を通じて自社のイメージをアピールするスポンサーは、テレビというメディアの構造維持に深く関わっています。視聴率や利益を優先するあまり、あるいは業界との関係性を考慮するあまり、スポンサー側が、テレビ局で起きている「性加害」や「やらせ」といった不正に対して見て見ぬふりをしたり、積極的に改善を求めたりしてこなかったとすれば、それは構造的な問題の共犯者と言われても仕方がない側面があるでしょう。つまり、業界全体が一体となって、「力関係」を背景とした不正を黙認・温存してきたと言えるのです。
変わらぬ業界に、今こそ視聴者の声で変革を
今回のTBS、いとう氏の告白、そしてフジテレビで立て続けに報じられた事案は、単なる個別のスキャンダルとして消費されるべきではありません。これらは、テレビ・メディア業界が長年抱え込んできた、力関係を利用した「性加害」や「不適切要求」、そして不適切な番組制作といった、倫理的にも構造的にも深刻な問題が、いよいよ白日の下に晒され始めたことを意味しています。
業界全体が、この厳しい現実に真摯に向き合い、「スポンサーも同罪」という指摘も含め、自らの構造的な問題を徹底的に見直し、抜本的な改革を行う覚悟が今こそ問われています。力関係に依存せず、誰もが安心して働き、不当な要求を断ることができる、倫理観と健全性を持った業界へと生まれ変われるか。
そして私たち視聴者もまた、テレビというメディアの送り手側で起きている「闇」から目を背けず、これらの問題について声を上げ、業界の変革を求め、より倫理的で信頼できる番組やメディアを支持していくことの重要性を、今一度認識すべき時が来ています。私たちの無関心は、この構造的な闇を温存させることに繋がってしまうからです。