外食業界の危機：原材料高騰と「千円の壁」がもたらす倒産リスク

2024年、帝国データバンクの報告によれば、飲食店の倒産件数が過去最多の894件に達し、前年の768件から16.4％増加しました。特に、居酒屋、ラーメン店、焼肉店、洋菓子店などの業態で倒産が急増しています。この背景には、原材料価格の高騰と、それを販売価格に転嫁しにくい「千円の壁」の存在が指摘されています。本記事では、各業態の現状と具体的なデータ、実例をもとに、厳しい環境下での再生策について詳しく解説します。

1. 原材料価格の高騰がもたらす経営圧迫

世界的な情勢とコスト上昇

世界的な物流の混乱や供給体制の不安定化、さらにはインフレの影響により、外食産業に使われる主要原材料―小麦粉、鶏卵、砂糖、バター、牛肉など―の価格が大幅に上昇しています。例えば、洋菓子店では、これらの原材料価格の上昇を販売価格に転嫁できず、利益が確保できない店舗が増加しています。

具体的なデータ

洋菓子店の倒産：2024年度、洋菓子店の倒産は51件発生し、前年度の1.6倍となり、過去最多を更新しました。
焼肉店の倒産：2024年度、焼肉店の倒産が急増し、前年度から倍増して過去最多となりました。

2. 「千円の壁」――消費者が感じる価格転嫁の難しさ

消費者の価格感度

外食業界では、原材料や人件費の上昇分をそのままメニュー価格に転嫁すると、1食あたりの価格が1,000円を超えることが多くなります。しかし、消費者はこの「千円の壁」に非常に敏感であり、価格が1,000円を超えると利用頻度が減少する傾向があります。このため、多くの店舗で価格転嫁が困難となっています。

影響を受ける業態

「千円の壁」は、以下の業態で特に顕著に現れています。

ラーメン店：原材料費の高騰により、1杯あたりの価格を1,000円以上に設定せざるを得ない状況ですが、消費者の抵抗感から売上が減少しています。
焼肉店：牛肉の価格上昇を受け、セットメニューの価格が1,000円を超えると、消費者の利用頻度が低下しています。
洋菓子店：ケーキや洋菓子の価格を上げることで、消費者の購買意欲が減退し、売上が落ち込んでいます。

3. 再生に向けた取り組みと業界再編の展望

業態転換とメニュー多角化

倒産件数の急増を受け、各店舗は従来のビジネスモデルからの転換を模索しています。

ラーメン店：健康志向の高まりに対応し、低塩・低脂肪のスープや野菜たっぷりの新メニューを開発し、若年層や健康志向の顧客からの支持を得るよう努めています。
焼肉店：牛肉の一部を低脂肪部位に切り替え、野菜セットを充実させたメニューを展開し、健康志向の顧客を取り込む戦略を進めています。
洋菓子店：高甘度スイーツから、グルテンフリーやオーガニック素材を使用した商品への転換を図り、健康志向の消費者のニーズに応えています。

公的支援と業界団体の取り組み

政府・自治体は、外食産業の再建支援策として、低利融資や補助金制度を実施しています。また、業界団体は店舗間での共同仕入れや情報共有、マーケティング支援を通じて、各店舗が抱えるコスト圧力の軽減と経営基盤の強化を図る取り組みを進めています。

4. 消費者の嗜好変化と今後の市場動向

健康志向の高まりと価格転嫁の難しさ

近年、健康志向やダイエットブームの影響により、消費者は外食時の食品の価格や栄養バランスに敏感になっています。多くの消費者が「1,000円以上の価格には抵抗がある」と感じており、これはラーメン店、焼肉店、洋菓子店など多くの外食業態に共通する課題となっています。

具体的な影響とデータ

居酒屋の倒産増加：2024年1月から11月までの間に、居酒屋の倒産件数は203件に達し、新型コロナ禍で倒産が相次いだ2020年の年間倒産件数189件を上回りました。
クリスマスケーキの価格上昇：2024年のクリスマスケーキの平均価格は4,561円で、前年から149円（3.4％）の値上げとなりました。